語学の神様~駐在員編~

中華圏ではタクシーは助手席に座るのがお楽しみ。一番の会話練習

ニーハオ、ニホンコンです。

先週の学習者の話、書き出したらいろんなことを思い出したので、
今日はやや特殊ジャンルの「中国の駐在員の方々」の話でも。

先週の中国語研修は、日本で中国語が必要なインバウンド関連の
業務をする方向けなのですが、もう一つ、「まもなく中国に駐在する」
ビジネスマンに向けて、1対1の「駐在前中国語研修」をしています。

語学の神様というか、中国の神様に気に入られたか、ご縁あって
中国に向こう5年住まおうとしているおじさまたち。

マンツーマン、なんて緊張感ありまくり、かと思いきや、
これがまた、楽しすぎる。面白いおじさまたちに出会え、
思い出がいっぱいです。

大人の階段上るおじさまたちとの、思い出深いエピソードを、
オットさんのスマホに入っていた「台湾でなにやってんだ写真」と
共に紹介します。

①「行きたくないよー」と机に突っ伏しちゃったで賞

研修初日は、おおよそのゴールを共有するため、毎回学習歴や渡航歴、
赴任先などをヒアリングします。

そのおじさま。のっけからいきなり机に突っ伏す!そしてか細い声で

「行きたくないよ~、行きたくないよ~」と嘆きだした!

ギョギョギョー!こんなの初めて!!うろたえながらも
事情を聞くと、こうなのだ。

①自分はもう5年間赴任して去年帰国したばかり

②赴任先はド田舎

③後任が去年入れ替わりで赴任したのだが、健康上の理由
(というか、ド田舎中華生活にギブアップ)で1年経たずして帰国

④後釜がおらず、またお鉢が回ってきた

という、何とも泣けてくる話なのだ。

言っとくけど誰も悪くない。悪くないけど、間違いなく②がネック。

中国の赴任というと、上海や深センなど、都会で生活に困らず、
UNIQLOもあれば日本食もあり、日本とさして変わらない生活を
送れる場所も多くある。

でも、②の事情を聞いてみると、その町に外国人は日本人含めて5人。
住まいはホテル。マックやケンタッキーなどの外資の外食産業は皆無。

だから、餃子屋さんしか行くところがなく、グラム単位で注文する
難解な注文方法が完ぺきにできるとか。

そりゃあ大変。中国での駐在員の二大お楽しみである、ゴルフもねぇ!
カラオケもねぇ!だったら「おらこんなムラ嫌だ~」ってなるな。

その後、当時勃発した尖閣諸島問題でビザの発給が送れ、渡航日がじりじりと
延期。同時にキラキラした目で「よし!このまま伸びろ!」と願っていた
ものの、その後無事(なんだかどうだか)ビザがおりて渡航しました。

最後の最後までもがいていたおじさま、お元気でしょうか。

赤ちゃんと動物は一番ナイスとっかかり、ここぞとばかりに話しかけに行く

②中国赴任の人事を一手に握っていたら、
自分が行く羽目になったで賞

ある会社の赴任研修を、8年近く担当していますが、いつも思うことが。
「この会社、ほんといい人選するなー」と。皆タフで、そして何より
「酒が飲める(これだいじ)」。

「はっはっはー、アイツいいだろ?そりゃそうだ、俺が選んでんだから」

と、威勢よく言うおじさま。聞くと、中国行きの人選は、全てこの方の
采配によるものだった。

「だってさー、赴任して白旗上げられたら、本人も会社も辛いじゃん」と。

ああ、前段のおじさまの会社に言ってあげたい・・

でも、定年まで2年というところで、自分が行く羽目になったんだと。
「ゆっくりこのまま日本で終われると思ったけど、中国だって。
2年しかないのに、オレ、何すんだろう?」とおっしゃってました。

ただ、元気な中国赴任者を多数送り出しただけあって、ご本人も元気で
そして大酒飲み。

「俺さ、上海出張は酒飲みすぎて失敗だらけでさ、パスポート財布携帯
全部入れたカバンを何度も店とタクシーに置いてきたことか!」
(よくぞ生きておられた・・)

「中国人の干杯(ガンペイ=イッキのみ)は白酒(59度の強いお酒)で
やるとダメだね。紹興酒で通せば30人くらい並ばれても大丈夫だった」

と、失敗しながらも無数の宴会を制覇してきたようで、もはやこの方に
教えることは何もなかろうと私が白旗上げそうになった。

「今は昔と違って経費なんて使えないから、向こうで副社長とかでも貧しくてさ!
株と不動産で儲けてるローカル社員のほうがよっぽど金持ちでやんなっちゃうよ」

と、ぼやきながら渡航しましたが、その後のお話を聞く限り、元気にやってる
というか、飲んでるそうです(笑)。

(中華ビジネスはまだまだ宴会が仕事を決めたりする習慣が残り、お酒を酌み交わし、
いや酌み交わさないと仕事が成立しないことも多いのです)

九份からの遅い帰り。全然電車がなくて途方に暮れている親子

③自腹切りすぎて大赤字で賞

2度目の中国赴任というおじさま。1度目の赴任で中国語もマスターし、
忘れないように中国語研修を受けるという意識の高さ。

先にもお話した通り、飲みニュケーションがビジネスの場でも盛んな中国。
やっぱり赴任中、そして出張中も飲み会で夜は埋まるんだとか。

「中国ではすんごい大事なビジネスの場だから、飲みたくない日でも飲むんだけど、
事情をよく知らない日本の本社からは『何やってんだ?遊んでるだけじゃん』って
思われてるんだよね、トホホ」

と、日本との温度差を嘆いていたりしてました。

現地ではCEO、要は社長のポジションで行くのだけど、「もー大変なんだって!
出銭が多すぎて」と。

社長ゆえ、旧正月明けには200人もいる工場のワーカー全員に
お年玉を配らなきゃいけなかったり、とにかく自腹が大変だと。

「でも最近は楽になったね、スマホからピッて全員に送ればいいだけだから」

ああ、少し前のお年玉赤いポチ袋に入れて手渡しだったのが、今やデジタルか。
寂しい思うのは日本人だけで、たぶん中国人は「もらえりゃいい」だろうな。

一番キツかったポケットマネー話を聞かせてくれた。

「会社で忘年会があるの、その時にビンゴ大会があるんだけど、1位から3位までは
課長(中国人)部長(中国人)社長(日本人)の3人から現金での賞金がもらえる
ってシステムでさ」(中国っぽい!)

「で、用意していくワケよ、一等賞の賞金。一応社長だからさ、見え張って日本円で
換算して10万くらいを財布に入れていったんだよね」

ここまで聞くだけでも、なかなかの自腹。

で、ビンゴは進むよどこまでも。そして、第三位、すなわち課長賞の番になった。

事件は現場で起こる。。

中国人課長、まさかの大盤振る舞い。
「第三位の賞金は、△万元です!!」社員一同「イエーイ!!!」

と声高らかで宣言した金額!まさかの社長のオジサンが用意した10万円!
オイオイまてよ!最初からそこ行く?!と青ざめる。

さあ、ここから先は見栄の張り合い合戦。こうなると、中国人は止まらない。

同じ金額はメンツにかかわるから絶対にないし、どのくらいUP
するかで、本人の懐のデカさ、器のデカさ、要は「その人」を試される。

次の第二位。中国人部長からの一声は、そりゃもう「倍!」。日本円で20万!!
そりゃそーだ。中途半端な上げ幅にしたら中国人が死ぬほど嫌がる「あいつケチ」
のレッテルを一生背中に貼り付けられる。

もう、沸きに沸く忘年会。間違いない。ローカル社員からしたら、ビンゴみたいな
運まかせのゲームで月収の数倍の金額を手にできるんだから。

で、第一位、日本人社長、おじさんの番だ。

「だ、第一位は、〇〇元です」。会場一同「おおーーーーっ!!」
もはや、ここまできたら何も驚かない。順当な上り幅で、日本円で30万。

お、お金どうしたんですか?という純粋な疑問が湧いたので聞くと、
もう、第三位が発表された時から、こりゃマズイと、会場中を駆け回り、
現金をかき集めて(というか借りて)賞金に備えたそうな。

「もう、赤字なんてレベルじゃないから!」と。

見事一等賞を獲得した社員には、壇上に上げて、ご褒美の賞金と共に、
日本から持参した歌舞伎面のフェイスパックを、大赤字のやけくそで
その社員の顔に貼り付けてやったんだと。

会場はどっと沸き、本人はどっと疲れたそうな。

この人何やってんだ?と思ったら自分だった。記憶にございません。

思うに

私は一介の講師であり、駐在のタフさを語ることはできません。
それでも、ご自身が持つキャラクターと精神力と忍耐力と健康と聡明さと
自腹と・・と挙げたらキリがないけど、すべてをフル活用して真っ向勝負を
している姿に、感動すら覚えます。

毎回、駐在前研修では、語学という共通項でご縁があった方と、数か月間
学習を共にする中で、たくさんの失敗談や武勇伝、意気込みやため息まで
いろいろ聞くことができます。

それは外部講師という立場でノコノコやってくる私との共通の話題として
気を使ってくれているリップサービスかもしれないけど、それでも
私はその話の数々こそが、その人を形どる、魅力というか、その人を
その人たらしめる要素であるような気がして、やっぱ人間っていいな、と
よく分からない結論になるのですが、そこに尽きると思うのです。

結局南極、わたしは講師という名札を付け、中国語の学習という大義名分
を抱え、「人に会いに行く」こと、それ自体が三度の飯くらい好きなんです。

まだまだ強者はいましたが、書くと巻物みたく長くなるのでこのくらいに。

8月31日 ニホンコン

ニホンコン

(毎週火曜日更新)
北京と香港に住んでました。今は湘南に住みながら中国語や異文化の先生をしています。ちなみに3人娘のおかあさん。