記憶に残るもの。
前回に続き、子どもと旅したソウルのお話です。
FESを見た翌日の朝ごはんは何を食べるか。あれもこれも、選択肢がたっぷりありすぎるので、大きなくくりから絞っていきました。麺、ごはん、パン。何がいいかな?「う〜〜ん。じゃ、ごはん」クッパ、キンパ、ビビンバ、ポックンパッ。何がいいかね。「う〜〜〜〜〜ん。ビビンバ!」
お天気の良い日だったので、少し歩く場所でも散歩につきあってくれるかなと、忠武路にあるホテルからお目当てのビビンバ屋さんがある場所まで15分ほど、とことこ歩き始めました。イチョウの木が真っ黄色に染まり、時々上を見上げるのも楽しく、まだそこまで寒くない。陽射しがやわらかくきれいな日で、歩くのにぴったりの陽気でした。

子どもは昨日FESで見たバンドの曲を聴いているのか、はたまた別のアーティストの曲を聴いているのか。くわしくは聞かなかったけれど、片耳にだけイヤホンを挿し、音楽を聴きながら歩いています。週末で問屋街は人もまばら。途中で通り抜けた包装用品などを扱う店が立ち並ぶ芳山市場、ほとんどの店が閉まっている。時折、スクーターとすれ違いながら、路地を曲がる。永く営業している食堂が多い通り。보건옥(ボゴノク)漢字で書くと「保健屋」という名前の肉料理専門店が本日お目当て。


ホテルでダラダラしてしまって、朝ごはんというには遅い時間。ほぼブランチの時間だったからか、お店には地元の人らしきおじ様たちがひっきりなしにやってきて、食事を済ませ席を立っていく。1970年から続く店。プルコギが有名なのだけれど、ランチメニューも充実している。ユッケビビンバ以外にもコムタンやユッケジャン、チェユクポックムサムパッ(豚肉のお入り辛いためを野菜で包んで食べるもの)など、目移りするものがたくさん。
メニューの説明をしながら、何を食べるか尋ねると、しばらく迷ってから、やっぱり初志貫徹。「ユッケビビンバにする」という答えが返ってきました。母はチェユクポックムサムパッにもだいぶ後ろ髪をひかれながら、ユッケビビンバを選択。違うメニューを頼んでシェアする方が楽しいのはわかっているのだけれど、ソウルに来たからこそ食べられるユッケビビンバには、変え難い魅力があるんですよね。

もやしのナムル、ミョルチポックム、キムチなどパンチャンがテーブルにずらりと並ぶと、はらぺこだった様子の子どものチョッカラがすかさずお皿に伸びる。店によって味の違うキムチを味わう楽しみを子どもも覚えたので、ここのお店のキムチはどう?と訊いてみると「うん。おいしい」と一言。そのあと、何度もキムチを口に運んでいた様子を見ると、だいぶお気に入りの味だったようです。
ほどなくして、テリテリの肉に思わず身震いするユッケビビンバがやってきました。ここのお店はごはんとビビンバの具材が分かれてやってくるスタイル。ごはんを少しずつ混ぜながら食べてもいいし、おかずのようにユッケをごはんに乗っけて食べてもいい。ご飯の蓋をあちちと開けてから、さて、どうやって食べようかなと、器をぐるっと見回す子ども。まずはぴっかぴかの黄身を慎重に崩して、ナムルやユッケ、イカ、キムチと混ぜていく。ご飯を半分くらい入れてさらに少し混ぜたあと、スッカラでビビンバを口に運ぶ。味は、どう?と訊くと「うん!」とだけ短く答えが返ってきて、スッカラを忙しく動かし続ける様子を見ていると母も嬉しくなる。

パンチャンもユッケビビンバもきれいに平らげ、短い時間で店を出る。路地裏の名店。一人で来るのもいいいし、友人と来るのも楽しい。でも子どもと一緒に、こういう場所に来られるのは、ちょっと特別だ。またソウルを訪れ、この店の近くを通る度に、きれいに空っぽになった子どものビビンバの器を思い出すのだろうな。
おじさんたちに囲まれて、夢中で食べたユッケビビンバのこと。子どもの記憶のすみっこには、どんなふうに残ってくれるのか。はたまた残らないのか。大して残らなくてももちろんOKだし、また行きたいと時々思い出してくれるのなら最高だ。
母にとっては、ソウルにまたひとつ大切な店が増えました。

今週も一週間おつかれさまでした。風邪が流行っているようです。体調管理に気をつけて年末まで走り抜けられますように。