居心地のいいポツン。

4月にネパールに帰国してしまう友人の送別会をやりませんか。そう旅の仲間に相談したのは、3月の気仙沼。家族で帰国をするため、家やこどもの学校など、様々な手続きをするのに戻ったネパールのカトマンズで。友人が知った現実は、生活や教育にまつわるお金が日本よりもはるかに高くつくこと。結果、帰国を1年伸ばすことになりましたと、送別会の1週間ほど前に連絡が入る。送別会でなくなったのは嬉しい誤算。せっかくなので、ごはんの会はそのまま開くことにしました。

「〇〇のあたりに古民家を改装したカフェができたらしいよ。」ママ友あやちゃんから聞いていたお店。バンドエイドを買いに行った薬屋さん の先で、どこにあるのか探していたお店にたまたま出会う。

事務所のテーブルを二つくっつけて開く食事会は久しぶり。送別会じゃなくなったから、ネパールではなかなか食べられないものを中心に作らなくてもよくなった。友人が好きな鶏ひき肉とパクチーのパスタとモモは作ろう。あとは何がいいかね。蒸しギョプサルとand recipeでは呼んでいるサムギョプサルとポッサムのあいのこと野菜はたっぷり用意。あとは唐揚げとおかずをいくつか。鶏もも肉を唐揚げサイズにカットして、生姜をすっていると「少し遅れて10分すぎに到着します」と主役からメッセージが入る。酒、うすくち醤油、ごま油、とみりんを少し。調味料を肉に揉みこもうとしていたら、別のメンバーからまたぴろんとメッセージが鳴る。「すみません、20分到着になります!」「急がずお気をつけて」。

ここ数日雨続きだけれど、地面いっぱいのクローバーは晴れよりきれいな黄緑色。土の匂いが香り立つ緑。

約束の時間の10分ほど前から一人、また一人と旅の仲間が集まる。「送別会じゃなくなったんだね。」「ずっこけたけど、またちょくちょく会えるのは嬉しいね」早めに到着したメンバーで、一旦小さくカンパイ。久しぶりの再会を喜び合う。今日は食事の準備がぎりぎりになってしまったので、テーブルにはまだ箸休めのおかずしか並んでいない。急いで料理に戻る。少しして主役が到着。もう一度カンパイ。早速、今のネパールがどんな状況なのか、みんなから質問が飛び交う。単純に日本の方が生活費が安いということではなく。まだ小さな子どもたちが遊ぶ公園がカトマンズでは整備されていないことや、水や病院の問題。日本人の奥様と日本生まれ、日本育ちの子供たちの言葉の壁など、複合的に考えて、本格的な帰国は少し先に伸ばした方が家族のために良さそうだと判断したのだということだった。

雨のせいか独り占めの状態。カフェラテに合うおすすめの豆についてゆっくり説明を聞く。ベリーとチョコレートの香りのするETHIOPIAでカフェラテを作ってくださるそうです。

旅の思い出話になると笑いが起きて、ネパールの現状の話は真剣に。細長いテーブルを囲んで、全員で話す話題もあれば、近くに座っている何人かで別の話題になることもある。

Aメロ、Bメロ、笑い声はサビ。あっちではロック、こちらではポップス。音楽のように流れてくる会話を聞いたり聞かなかったりしながら、キッチンで唐揚げを揚げる。今日は卵と小麦粉を入れない片栗粉のみの皮がパリッとした唐揚げ。調味料の漬け時間も短め。シュー、パチパチ、シュー。徐々に揚がっていく肉の音の合間に笑い声。楽しそうなみんなの声をBGMにガスコンロの前で唐揚げと向き合う自分は一人。なのだけれど寂しいとは違う、心地の良い孤独感。トイレ帰りにシンクで手を洗いに来た人が、ちょっと声をかけてくれたり、タバコを吸いに換気扇の下に来たチームの会話に参加したり参加しなかったり。

ガスコンロの向こう側で会話が移り変わっていくのを、聴いたり聴かなかったりする自由なポツンと感。お酒足りているかな。次はモモのお皿が行くから、あそこのお皿は片付けてしまおう。料理をする手元とみんなのいるテーブル。視線を行ったり来たりさせながら、次のパスタのためにお湯をわかす楽しさ。

モモを蒸している間、みんなのところで飲んだり、またキッチンに戻ったり。一人になったり、会話に参加したり。そんなことを繰り返していたらふと、芸人さんのマネージャーをしている時代を思い出しました。コントライブのツアーの時。チケットのもぎりを終えて、しんと静かになったロビー。アルバイトで手伝いをしてくれている若手の芸人さんたちには、中に入って舞台を見てくださいと告げてから、受付のテーブルに戻る。遅れてくるお客様を待ちながら、もぎったチケットの半券をまとめる。ロビーに舞台の音が流れる会場もあれば、流れない会場もある。演者、お客様、スタッフ。みんなが舞台に集中している大きな円の中にはいるけれど、一人。時折漏れてくる会場のお客様の笑い声を聞いて嬉しくなる時間。マネージャーの仕事、誰かのためのごはん。形は違うように見えて、ずっとおんなじことをやっているのかもしれないな。

そして結局、自分はこういう場所が、こういう時間が好きなんだ。居心地の良いポツン。一人っきりでは味わえないポツン。みんなの笑い声が聞こえるポツン。その声を聞いて、笑っている顔を見るのが嬉しいポツン。集まる機会がないと味わうことができない愛おしいポツンをコロナにうばわれていたんだな。

送別会から、なんでもないごはんの会に変わった時間が終了して。旅の仲間から次々にメールが届く。「またあいましょうね〜〜!」「というわけで、なにがいいたいかというと、またぜひ!」「昨日はごちそうさまでした。」「またこういうなんでもないタイミングで、なんでもない集まりをやりましょー。」帰るまでが遠足。また集まろうメールまでが、なんでもないごはんの会。

広い古民家カフェにポツンと一人。コーヒーはおいしかった。

「ごはん食べよう」が口約束にならない日々が、どうか続きますように。

今日も読んでいただき、ありがとうございました。みなさま、素敵な週末をお過ごしくださいませ。

こいけはなえの気になるもの。

(毎週土曜日更新)
マネージメントを中心に料理家と一緒にand recipeという会社をやってます。とにかく旅が好き。

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おしらせ

ゴビ砂漠を走るレース「GOBI MARCH」で、隔週水曜担当の若岡くんが優勝しました。世界チャンピオンおめでとう!苦しくも楽しそうな様子がページから見れます。