甘いもの。

「菓子は苦しい時ほど必要なもんじゃと、わしは思う。」

平日毎朝こどもを学校に送り出した後、おかえりモネの余韻で8時にNHKをつけるのが習慣になってしまった。今週の木曜日の放送。『カムカムエヴリバディ』という明るいタイトルからは想像ができないほど、もしや、違うよね、えっ、やっぱりそうなのか。言葉をなくす展開。8時15分を過ぎ、「あさイチ」がスタートしてしばらく経って昼ごろになっても、心がぽっかり宙に浮いていました。

今月中に納品で、最後まで粘り強くやらなければならない仕事の最終段階。緊張の解けない状態が、あともう少し続く。気落ちしている場合じゃないのに、今日はずっとドラマをひきずっている。

中国語の新しい教科書を買うようにニホンコン先生から言われていたこともあって、渋谷のジュンク堂にも行かなければならない。アマゾンで買えば早いのだけれど、語学の教科書はできればやっぱり本屋さんで購入したい。

「菓子は苦しい時ほど必要なもんじゃと、わしは思う。」

安子ちゃんのお父さん・金太さんのセリフが、今朝からずっと頭を離れずにいる。苦しいというところまではいかないけれど、元気をチャージするために今のわたしにも甘いものが必要だ。ジュンク堂の前にはVIRONがある。久しぶりにパフェだ。パフェを食べて気持ちを立て直そう。

原宿からテクテク歩いて渋谷まで。少しずつ秋から冬に模様替えをしている街。やわらかい白っぽい光が、地面をゆっくりとあたためる午後のこの時間もいいけれど。この時期はやっぱり、朝のきりっとした空気が気持ちいい。洗濯ものを干そうと扉をあけると、すっと吹き込んでくる風の冷たさに、しゃっきりと目が覚める。まだ冬とも言いきれないこの中途半端な時間。一年の中で格別に好きな、季節と季節の合間です。

原宿駅から渋谷まで。JRの線路沿いに歩くと、まだ名残惜しい秋の気配。すすきの穂が小さな風に少しだけ揺れている。

渋谷のファイヤー通りに入る。東急本店前にあるVIRONまで、どのルートで行こうかといつも迷う。急な坂を登らなくてはならないけれど、パルコまで上がってから東急まで下る方が距離的に近い気もするし、タワーレコードの前を通る傾斜のない道のりをいく方が楽な気もする。今日は坂を上る方を選んで、ほぼ日曜日で行われている「りんご狩りかもしれない展」に寄り道しようかな。勾配のきつい坂道をふーっと息をつきながら歩いていると、パルコまであと少しというところで電話が鳴りました。納品前の最終チェック。最後に、もう一点だけ文言の追加をお願いしますという相談の電話。パソコンを開けるところに急がねばならない。りんご狩りを断念して、急いでVIRONに向かう。

頼むメニューは、店に来る前から決まっているのに。ヌガーのグラッセ、シューアイスのホットチョコレートソースがけ、フレッシュチーズの生クリームソース!メニュー板が届くと、やっぱり違うデザートも魅力的で一通り見てしまう。あぁ、そんなことより。早くパソコンを開かないと。「すみません、キャラメルのパフェをください。」

「〇〇〇〇という感じの一文を足すことで解決できそうですが、いかがでしょうか。」「そうですね、それでお願いします。」「一度文章お送りするので、確認お願いします。」カチャカチャと先方とやりとりをしている間に、パフェがやってきました。バニラアイスの上に鎮座する生クリーム。その上にかかったキャラメルがつやつや輝いている。すぐにでも頬張りたい。でもその前に、急いでメールを送信しなければ。キャラメルパフェ様、もう少しお待ちください。

心を落ち着けて集中。メールを送り、気持ちを整えてゆっくりパソコンを閉じる。疲れた時に、いつも頭に浮かぶ甘いもの代表。VIRONのキャラメルパフェ。ロングスプーンを手に取った瞬間、朝のもやもやとした気持ちは消えていた。キャラメルのつやつやを目にするのは、だいぶおひさしぶり。あ、そうだ。ロングスプーンを手に取るよりも、先にやることがあった。

これこれ、これです。パフェのトップを飾っている香ばしいフロランタン。キャラメルの絡んだカリカリのフロランタンで生クリームをすくって食べること。それがこのパフェの、最初のお楽しみ。生クリームの上に、いい分量のキャラメルソース。ここ1週間、がんばったご褒美。いただきます。

キャラメルソース、生クリーム、アイスクリーム。パフェの両側に刺さったフロランタンが、チアガールのぽんぽんのように見えてくる。あと一息、がんばれと応援してくれている?そんな風に見えてくるのは、だいぶ疲れている証拠のような気もするけれど。「そんなことより私を楽しめ」とバニラビーンズたっぷりのアイスクリームが、スプーンを動かす手を止めないように、少しずつやわらかく溶けていく。

アイスの脇に控えているコーンフレークのザクザクもパフェの醍醐味。生クリーム2:アイス1:コーンフレーク0.5の割合でスプーンにのせ、一口でぱくり。ザクザクボリボリの食感が、しっかり!おきばりやす!と口から上下に伝わって、全身に力をくれる。パフェのコーンフレーク。脇役だけれど、絶対的な存在。

生クリームの山が倒れないようにバニラアイスを食べ終えると、今度はキャラメルのアイスクリームが待ち構えています。ほろっと苦いアイスクリーム。生クリーム2:アイス1:コーンフレーク0.2。コーンフレークが愛しすぎて、キャラメルのアイスを食べる頃には、その割合を減らさなければいけなくなった。

おかず、ごはん、汁物の三角食べじゃないけれど、パフェの三角食べはだいたいいつも失敗に終わる。

パフェの時間も終わりが近づいて受け皿に目を落とすと、お皿にも花が咲いていました。アイスが早く溶けないようにと、心配りがされたパフェグラス。まだ冷たく凍っています。

元気な時に食べても、もちろん嬉しい甘いもの。でもやっぱり無性に食べたくなるのは、どっと疲れている時や力が必要な時。「おはぎを二個食べたら、力がみなぎって」これから生きていくためにと、金太さんが商売の仕方を教えた少年の言葉。キャラメルパフェのおかげで、心と頭がリセット。力がみなぎって、翌日には無事入稿完了しました。

11月も終わり。来週にはもう12月がやってくるんですね。お忙しい日々をお過ごしの皆様、ちょっと疲れている皆様。お気に入りの甘いものと一緒に、2021年を元気に走りきれますように。

今週も素敵な週末をお過ごしください。

こいけはなえの気になるもの。

(毎週土曜日更新)
マネージメントを中心に料理家と一緒にand recipeという会社をやってます。とにかく旅が好き。

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