脇役があとでメインになる旅。

旅の相棒・おかっぱキヨコと済州に取材に出たのは今年の1月。

2023年コロナ禍を過ぎ、やっと海外に出られるようになったタイミングで、韓国へ取材のお仕事をいただいたCREAさんから、新たに済州取材のお話をいただき、おかっぱとボブで行ってまいりました。

まずは宿泊先、韓国で一番高い山・漢拏山が見えるホテルを探す。ホテルの屋上から漢拏山が見えるところを探したら、朝も夕もマジックアワーのタイミングで山を撮影しやすいのではないかと思い立ち、検索をかけまくり、わたしたちが大好きな島の南側、西帰浦の市場の近くで、屋上のテラスがすばらしいパークサンシャイン済州というホテルを見つけました。

チェックインをして、宿泊階のフロアに到着するとなんともいい香り。部屋もすっきり美しく、快適でいいサイズ。屋上からの眺めをチェックしにいこうと、最上階のフロアに到着するとまたいい香り。右手に海、左手には広大な漢拏山。遮るものなく、100点の景色。

このホテルにした、メインの理由はもちろん漢拏山だったし、景色も予想通りだったのだけれど、「いい匂いのするホテル」という想定外の理由が、脇役なのにもうちょっとで主役に躍り出そうな旅の記憶となりました。

済州を訪れるのは人生で4回目。最初に済州を訪れたのは旅番組のロケで20代の頃。なかなか食べれないよと出していただいた、大きなクエの刺し盛り。刺身をえごまの葉とサンチュで包み、サムジャンをつけて食べるという食べ方にびっくりしたことを思い出します。今でこそ肉でも魚でもごはんでも、なんでもサム(包む)して食べたい体になりましたが、当時の食べ方の割合は醤油8に対してサムが2くらい。サムで食べるおいしさに目覚めた今では、韓国で食べるのはやっぱり肉の方がいいなと思っていた自分のほっぺたを、ペチペチ叩いてあげたい気分です。

済州といえば刺身でしょうということで訪れた、毎日オルレ市場の中にあるウジョンフェセンター。日本ではあまりお目にかからない、太刀魚の刺身を食べるのが一番の目的でした。銀色の背中がキラリと光る太刀魚。おかっぱとよく旅をする釜山の食堂では、多めの油で揚げ焼きされた太刀魚を食べるのが楽しみですが、刺身で食べるのは今回が初めて。焼いた太刀魚の身は、タンパクな味でほろほろ崩れる、ごはんとの相性が抜群な白飯の友達という印象でしたが、刺身はまったく食感が違います。ぶりんと弾力のある食べ応えで、エゴマやサンチュに包んでサムジャンとニンニクを乗せて口に放り込むのが一番おいしいと思う。海外に旅に出ていきなり食べても口に合うものもあるけれど、直感的においしいと思うまで慣れや習慣というスパイスがかかせない食べ物もある。韓国で食べる刺身は、まさにそのカテゴリーに当てはまるものだったのかもしれません。今では、刺身にサム(包む)がないと物足りない。

サムする刺身が旨いとはいえ、それだけでは飽きちゃうかもなと店の中を見渡すと、手書きで書かれたメニューを見つけました。目に飛び込んできた고구마(コグマ)の文字。小熊ならぬさつまいもを意味するコグマの天ぷらを、刺身の箸休めにするのは悪くないんじゃないと、追加でオーダー。サムに飽きてきたところで、芋をかじる。旨い。なんだかとても旨いのです。もともと芋が好きだからという自分の嗜好の問題かと思いきや、目の前のおかっぱも芋をかじり続けている。

「これ、うまいな」
「だよね、うまいよね。」

普通に揚げているだけなんだとは思うのです。シンプルな芋の天ぷらなんです。でも、旨い。刺身の合間で食べるからなのか、芋自体がとてもおいしいのか、衣に秘密があるのか。ものすごい秘密があるというわけではなさそうな芋の天ぷらが、なんとも旨い。刺身が主役のこの店の記憶は、芋の天ぷらに書きかわりました。

ふいに立ち寄ったコーヒー屋さんと仲良くなって、サービスでいただいたハルラボンのヨーグルトがすごくおいしかったとか、済州名物のコギククスのオススメをタクシーの運転手さんに聞いて、連れていってもらったお店ではスンデが今まで食べたスンデの中でナンバーワンに躍り出たり。

今回の済州への旅は、主役よりも脇役が記憶に残るということが次々と起こりました。主役よりも脇役が記憶に残るということは、想定内ではない時間が多かったということでもある。旅は、想定内ではつまらない。想定外な脇役が次々と登場したこの旅は、いい旅だったということでもある。

CREA3月7日発売号「韓国のすべてが知りたくて。」よろしかったら、ぜひお手に取ってご覧くださいませ。

今週も一週間おつかれさまでした!よい週末をお過ごしください。

こいけはなえの気になるもの。

(毎週土曜日更新)
マネージメントを中心に料理家と一緒にand recipeという会社をやってます。とにかく旅が好き。

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