活気と会話のある場所。

「今年はカニが高いんだよね。ズワイはロシア産のやつより、カナダ産の方が旨いよ。タラバのロシア産とアラスカ産の味の違いくらい差があるよ。」

年末の市場の忙しさに遠慮して、タラバはロシア産とアラスカ産のどちらがおいしいのか質問ができないまま「そうしたら、カナダ産のズワイガニにしようか。2つ買う?」と年越しごはんを一緒に食べる予定のキヨちゃんと相談をしていると。

「それならおまけするよ。」

「カナダ産のズワイ2本と、数の子もお願いします。」

「もう終わりの時間だから、全部で5000円でいいよ。」

ズワイガニ2900円×2本。カニ2本ですでに5000円を超えているはずなのに。そんなにまけてもらってよいのでしょうか。

「はい、まいど。この数の子は無表白なんだよ。みんなが知ってる数の子は白いでしょう。これが自然の色。おいしいよ。」

府中の市場がすごく面白いから行こう!と誘ってくれていた旅の相棒、カメラマンのキヨちゃんとこの年末に2回。府中にある大東京綜合卸売センターに足を運びました。

できる時は週1回のペースで韓国語のレッスンをしているキヨちゃん。待ち合わせしていた府中本町の駅前で、懸命に宿題に取り組んでおります。

武蔵野線・南武線の府中本町駅から徒歩15分。西武多摩川線是政駅からも徒歩15分。わたしは自宅から近い幡ヶ谷から京王線に乗って、府中駅まで1本。府中駅からは徒歩で25分と表示されていましたが、その道のりは飽きさせることなく景色が変わっていく。大國魂神社へ続く気持ちの良い参道から府中街道を抜けて、市場の直前には「右に見える競馬場、左はビール工場」ユーミンの歌詞に登場するサントリーのビール工場が見えてきます。

「中央フリーウェ〜」口ずさんでいるとすぐ隣に目的地の大東京綜合卸売センターの入り口が待っています。年末年始の買い出しに来るお客さんの車が出たり入ったり。車の動きで市場内の活気が手にとるように感じられます。

「ちょっと友達のデニム屋さんに寄っていい?」

食品専門の市場を想像しているとびっくりさせてくれるのが通称府中市場と呼ばれる大東京綜合卸売センター。上海に住んでいることもあったという店主オッシーの営むデニム専門店。ヴィンテージデニムの販売とリペアを行っています。キヨちゃんに似合うオーバーオールが見つかったよと連絡をもらったようで、早速試着に。

店名「GREEN DOOR」が中国語で書いてある。「緑门」Lǜ mén。中国語学習者、もちろん拼音もチェック。
オッシーの見立てはどんぴしゃり。色味もサイズも気に入ったご様子。裾の丈直しをしてもらって、また取りにくることに。

氷屋さんも含む水産関係のお店が8店舗。精肉関係が8店舗。卵の専門店2店舗。青果3店舗。花屋さん1店舗。乾物3店舗。お茶・コーヒーで2店舗。漬物や調味料など一般食品を扱うお店が15店舗。オッシーのデニム屋さんや梱包材のシモジマなど日用品や雑貨のお店が19店舗。お食事処やおべんとうの店が14店舗。

1966年に営業がスタートした市場には70強の店舗がぎゅっと詰まっています。

縦に5本、横に2本の通路が走り碁盤の目状になった構造で、一度場内を歩くとあそこに何があったという感覚は掴めるほどよい広さです。

「キヨちゃん、見て!こんなにおっきいエビが4匹で1000円だよ。安い!」

「安いだけじゃなくて、うちのは旨いよ〜」

近所のスーパーではなかなか出会うことのない有頭のエビ。子供がエビ好きなので思わず飛びつく。値段を見るとこの大きさでこの価格。思わず声が大きくなったことを少し後悔する。

この日購入したエビは中華蒸しとエビフライにしていただきました。おじさんの言う通り。安いだけじゃなくて、甘みと旨味がたっぷりでとてもおいしかったです。

「ようこさんたちのお店に行こう。」

キヨちゃんの足が向かう先は、スパイスや調味料、紅茶など。アジアの食材がところ狭しと並ぶアジアンミールさん。

「きよちゃん、いらっしゃい!」オーナーのようこさんと、スパイス博士のその名も海野博士さんが迎えてくれる。キヨちゃんがお二人にわたしを紹介してくれると、「ちょっとこちらへ。」と博士さんが手にするボックスの中にはたくさんのスパイス。

目の前のボックスから、ずっといい香りがただよっています。

「ちょっと手を広げてみて。これクローブ。カルダモンも足しましょう。匂いを嗅ぐ時はスパイスを手にくるっと握って親指と人差し指の間から嗅ぐのがいいよ。」

「ここにシナモンも足すと、ほらこれ何の香りになるかわかりますか?」

「ちょっと柑橘の匂いもするし、なんだろう。」

「これ、クラフトコーラの素になるんだよ。」

あぁ、いい香り。ずっと嗅いでしまう。

以前は中華街で輸入食材の仕入れをされていたという博士おすすめの豆板醤。甘みと旨味がつよいおいしい豆板醤なのだそうです。
ベトナム、タイの麺類も豊富にそろう。
アジアの雑貨コーナーでは散財。ベトナムのフォークや中国の調味料入れ、インドのランチボックスなど。あぁ、旅に出たくなる。
スリランカのタワシも買いました。S字が細かいところも洗いやすそう。

「花ちゃん、来て。スパイスが小分けにされてるのが嬉しいねん。」

確かに。よく見るとスパイスの名前がついたシールには、ひとつひとつ違うイラストが入っている。これはテンションがあがる!

そして旅に来た気分で、物欲も爆発。

チャイグラス。アッサムの茶葉も買ったから、ネパールで飲んだ甘いミルクティをうちで作ろう。

「これなんのスパイスだかわかる?」博士が手にのせてくれたスパイスの香りをかいでみる。

「セロリ…ですか?」

「そう!セロリシードっていうスパイス。これもいろんな料理に合うんだよ。」

「マヨネーズにまぜてディップにするとおいしいの。」今度は奥様のようこさんがおいしい食べ方を教えてくれる。

セロリ、大好物なんです。早速やってみます。

SBの赤缶もこの大きさ!クリームシチューの業務量パックにもテンションがあがる。

「お腹すいたね。お昼たべよっか。」

博士さんも一緒に定食屋さんまでついてきてくれて、ラーメン屋さんやマグロ丼のお店を逡巡。うどん屋さんも美味しそうだったし、カレーも気になるよね。

「石川県七尾漁港であがった、獲れたてのぶりを使った漬け丼です。」というお店の方の言葉に惹かれて決定。

魚のあらがたっぷり入ったお吸い物の出汁が身体にしみわたる。

市場のお隣。サントリーの府中工場でできた(であろう!)モルツの中瓶も注文して、市場で贅沢ランチ。あぁ、至福の時間です。

韓国や台湾。旅の相棒キヨちゃんとアジアに行くと、必ずその地域の市場に足を運んでいました。そこでボディも含めたランゲージで会話をして、笑顔でまた来ますと言って別れる。そうやって「また来ます」と話したお店には、次に旅をする時にもやっぱり足を運びたくなる。小さな約束を覚えてくれている市場のお母さん。「また来てくれたの?今日は何にする?」と話してくれたキムチ屋さんのお母さん、元気でいてくれているかな。

さよなら2021年。ウェルカム2022年。今年はまたいろんな国の市場で、「また来ます」と言えるような日が来ることを心から願いつつ。

みなさま、素敵なお正月をお過ごしくださいませ。

こいけはなえの気になるもの。

(毎週土曜日更新)
マネージメントを中心に料理家と一緒にand recipeという会社をやってます。とにかく旅が好き。

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