ゆでたま考。

1月最後のSAKRAJP土曜日。更新が大変遅くなってしまいました。申し訳ありません。

土曜日に行った写真のワークショップ。今回のお昼ご飯はパスタにしました。つけ合わせは何にしよう。メインメニューのセロリのボロネーゼ、ミートソースの赤とトッピングのセロリの葉の緑の横に黄色があったらきれいだなと、半熟卵を作ることにしました。

沸騰したお湯におたまにのせた卵をゆっくりひとつずつ入れていく。なるべく鍋の底までお玉を運ぶ。妥協してお湯の上部で卵を解き放ってしまうと、卵が勢いよく鍋の底にあたって殻にヒビが入ってしまう。そーっとそーっと卵を放つ。蓋をして7分半。ピピッとタイマーが鳴ったらすぐに水で冷やす。沸騰したお湯に入れること、蓋をすること、水でしっかり冷やすことで卵の殻がつるんとむける。蓋の役割、重要でございます。全ての卵の殻がきれいに剥けるとなんだかとても誇らしく、気分がいい。今回の半熟卵は大成功でした。

塩をつけるだけでももちろんおいしいゆで卵。砂糖、醤油、みりん、水のつけだれに一晩つけた味玉もおいしいし、スコッチエッグもおいしい。スコッチというからにはその発祥はスコットランドかと思っていたら、スコッチエッグはロンドンのデパート「フォートナム&メイソン」で1738年に発明されたとされているんですね。ゆで卵をひき肉で包んで、パン粉をつけて揚げる。ボリュームたっぷり。食べる直前にウスターソースをたっぷりかけて頬張る。サクッとした食感とジューシーな肉の旨味に最後は優しい卵の味。何段階もおいしいごちそう。文字に起こしているとめちゃくちゃお腹が空いてきます。みなさんは、どんなゆで卵料理がお好きでしょうか。

ゆで卵のことを考えていたら、ふと頭に降りてきた、とある卵のお料理がありました。12月に訪れたベトナム・ハノイの一食目。夜にホテルに到着。一旦荷物を置き、毎週末行われている賑やかなナイトマーケットの人混みを、右へ左へ早足で人の合間をすり抜けながら、お目当てのブンのお店にたどり着きました。ドンスンアン市場の目の前にある、ブンのお店の看板メニューだというBún riêu(ブン ジウ)。トマトベースのスープに米粉で作られた押し出し麺であるブンの入っているお料理。沢蟹ならぬ田んぼで育った「タガニ」のすり身の入ったブンを2種類頼みました。その時メニューに書かれた文字で分かっていたのは「ブン」の部分のみ。タガニが名物だったということも、あとで調べて知りました。

すぐにやってきた二つのどんぶり。日本では見たことのないハーブも一緒にたっぷり運ばれてくる。気になるハーブをそのままかじってみると、食感だけで香りや味のしないものも。あれはなんのハーブだったんだろう。それ以上に気になったのがトッピングされた卵のようなものでした。半分は確実に黄身。なのだけれど、逆サイドの半分はちょっとグレー。模様のように見える細い線の正体はおそらく血管なのだろう。なんともグロテスクという単語がぴったりな物体。

ベトナム語学習初心者マークの私。グロテスクのベトナム語が気になります。調べてみると出てきたのはkỳ quái(キー クアイ)。キークアイ。これは絶対、漢字由来の漢越語だよね。奇怪だ!。望月峯太郎さんの漫画に出てきそうなビジュアル。奇怪なたまご。

一緒に旅をしていたちばっちと二人で「これたまご…だよね。きっと。何か種類が違うのか…ちょっと育っちゃってるのかな。」二人とも、それ以上その物体には深く言及しないようにして、深夜のブンタイムは過ぎていきました。

ゆで卵のことを考えながら、世界のゆで卵料理を調べていたら、あの時の謎を解いてくれるページに出会いました。グーグルの検索ランキング上位に位置するホビロン(hột vịt lộn)という名前。その説明の文字の並びに、リンクをクリックするのをしばしためらう。

ホビロンの正体は、孵化寸前のアヒルの卵をゆでた卵のお料理のことで、フィリピンやベトナム、ラオスやカンボジアなどでよく食べられるものと書いてある。その昔「美味しんぼ」のベトナム編にも登場したことがあるのだそうです。瞬間的にわたしたちの会話を減らした黄色とグレーのまぁるいものは、ホビロン(hột vịt lộn)でございました。これもベトナムの南部と北部で言い方が違うのかなと調べてみると、やはり違いがありました。 南部では「 hột vịt lộn (ホッヴィッロン)」、北部では「 trứng vịt lộn (チュンヴィッロン)」と呼ぶのだそうです。

ホビロンはどんな時に食べるものなのか、来週のベトナム語のレッスンでホン先生に聞いてみよう。タガニにもびっくりしたけれど、ホビロンにはもっとびっくりした。ローカルな食材とのファーストタッチ。ホビロンはなかなかのインパクトだったけれど、その国に旅慣れてくると大好きに変化する食べ物もある。ベトナムに通い続けた数年後。果たしてホビロンはどんな存在になっているのか。気になります。
(ピントの合っていない奥のブンのどんぶりの手前にうっすら見えるのがホビロン。ホビロンにばっちりピントを合わせる勇気がなかった2023年12月のこいけでした。)

食べ物や歴史など。興味のある部分から紐解きながら、こつこつ楽しくベトナム語も続いております。次はいつベトナムに旅をしようかな。その時のコンディションで、ホビロンをチョイスできるかどうかはわからないけれど。また新たに面白い食べ物にも出会いたい。

寒い日がつづいておりますが、こんな日はおでんに入った出汁のしみたゆで卵が最高ですね。皆様どうぞあたたかくお過ごしくださいませ。今週も1週間おつかれさまでした。

こいけはなえの気になるもの。

(毎週土曜日更新)
マネージメントを中心に料理家と一緒にand recipeという会社をやってます。とにかく旅が好き。

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