旅の相棒。

仕事3/4、プライベート1/4くらいの割合で韓国に来ています。旅程を決めた時から、韓国のお店やアーティストのインスタグラムを眺めていると連日雪。朝の気温はほぼマイナスで、とにかく寒そう。「あったかくして行こう」久しぶりに一緒に韓国に行く旅の相棒フォトグラファーの衛藤キヨちゃんと、連日天気や温度のやりとりをしていました。「今朝のソウルは-11度だって。」韓国在中の方のツイッターにはマイナスの温度の報告が続く。

出発の日は東京も風がびゅーびゅー吹いていて、なかなかの寒さ。夜の出発のおかげで、用意を忘れていた手袋を相棒の分と自分の分を購入する余裕と、ぎりぎりの16時まで仕事もできて助かった。

旅で読み始めようと思って楽しみにとってあった田所敦嗣さんの『スローシャッター』を行きのスカイライナーで開く。読むのを我慢していてよかった。自分の行き先は韓国なのに、頭の中はチリのチャポ湖に飛んでいく。旅に出る前に、その時の旅の相棒になる本を選ぶ時間も戻ってきた。あとで本のタイトルと共に、その旅を思い出すことも幸せな時間になる。

空港第二ビルから第三ターミナルまでは少し距離がある。イヤホンをつけてYouTubeを開く。前回のソウルへの旅でも聞いていたイ・ヨンジ。SHOW ME THE MONEYというラップバトルで1位を決める番組に出演中の彼女が、先週の金曜日の放送で歌った「NOT SORRY」の映像をつけて、音だけを聞く。この1週間で何回聞いただろう。

미안해.(ごめんね)
하나도 하나도 아무것도 미안하지가 않아서.(ひとつも ひとつも なにも謝ることなんてないのに)
그저 나답게 살아가고픈 것뿐 .(ただ私らしく生きていくだけ)
歌詞:이영지(イ・ヨンジ)

低音の美しい歌声が耳に響く。今回の旅の間にも何度も聞くであろう相棒。夜の空港の光に似合う曲。

チェックインを待つ人の長い列が続くGのゲート。ソウルに向かうチェジュ航空とマニラに向かうジェットスターの乗客が混ざって並ぶ列の最後尾で「着きました〜」とメッセージを送ると、向こうから大きく手を振って旅の相棒が向かってくる。

「ソウルは寒い寒い言うてたから、今日あたし5枚重ね着してんねん」

キヨコ先生、寒さ対策は準備万端のようです。

「でも手袋きっと持ってきてないでしょ。黒と青の組み合わせと茶色とオレンジの組み合わせ。どっちがいい?」

「えー!黒と青!」

黒地に青で縁取られた手袋を渡す。19時50分発のチェジュ航空1107便。同じチェジュ航空の20時30分発の便もあるようで、列はどんどん長くなっていく。無事出国の審査を終えて、搭乗口に到着すると時間は19時30分。飛行機は満席。クリスマス、年末年始、韓国に帰る人たちの数の方が多いように見える。ずっとおしゃべりを続けていたから時間を全く気にしていなかったけれど、飛び立つまでにも駐機場から滑走路をだいぶぐるぐると回り続けていたようだ。20時30分に飛んだ。

「わたしは寝ます」コートに包まれてすぐに眠りに落ちたキヨちゃんの横で、本を開く。中国への旅のページ。メイウェイ…と思いながら私も眠りに落ちていた。

仁川空港に到着したのは23時すぎ。入国の審査は思ったよりスムーズで、30分ほどで外に出られた。ソウル駅までの直通列車の運行はもう終わっている時間で、各駅停車に乗車する。

「ソウルまであと10分でつくの?」

「あの表示はデジタルメディアシティまでの時間だね。ソウル駅まではまだ少しあるよ。」

ペラペラと会話をしているうちにデジタルメディアシティの駅に到着。

「この電車はデジタルメディアシティが終点です。最終電車となります。この先の駅には参りませんのでご注意ください。」

車内でのキヨちゃんの質問がフラッシュバックする。いつもあるはずのソウル駅までの表示がなかったのは、そういうことだったのか。慌てて最終の電車を調べてみると、私たちの乗った空港鉄道は23時57分の仁川空港発デジタルメディアシティ行だった。ソウル駅まではまだだいぶ距離があるから歩いてというわけにもいかない。おしゃべりな二人でも難しい寒さと距離。地上に上がると、同じように放り出された観光の人たちとソウル在中の人たちで運命が別れる。

大通りに停車するタクシーの表示には「예약(イェヤク)」予約の文字。アプリでタクシーを呼んでスイスイと去っていく人たち。出発直前で購入した手袋のおかげで手元は温かいけれど、足元がとにかく冷える。「빈차(ピンチャ)」空車のタクシーを探して手をあげても、スピードをあげているタクシーはなかなか停まってくれない。タバコ休憩をしているタクシーを発見して、運転手さんの喫煙が終わるのを待ってみるも、喫煙のあとには自動販売機にむかってコーヒータイムが始まった。

近くのコンビニに入って暖を取りながらタクシーのアプリを入れるか、もう少し道でピンチャにアタックするか。これでダメなら、コンビニへ。だいぶ後ろの方に光るピンチャの文字のタクシーに向かってブンブンと手を振り続けると、中央の車線にいたタクシーが滑らかに車線を変更して停車をしてくれた。神様仏様기사님(キサニム)様。優しい運転手さんが窓を開けてくれる。

「乗れますか?トランクを開けていただけるとありがたいのですが。」

「トランクは今使えないんです。前の座席にスーツケースを乗せていく形でもよければ。」

「ありがとうございます!」

助手席にひとつ、後部座席にひとつスーツケースを乗せて人間は小さくなって座る。若い運転手さんでホテルの名前をつげるとさくさくとナビを設定し、音楽のボリュームを少し下げてくれた。ナビを設定している携帯を操作する合間にまだ2、3歳の男の子の写真がちらちらと見える。

「かわいいなぁ。きっと息子さんやなぁ。」

しばらくすると見慣れた街の風景にたどり着き、ホテルに到着した。

「そちらのドアも開けますよ」運転席を降りて、スーツケースが扉の横を牛耳っている側のドアをさっと開けてくれた。優しい運転手さんのおかげでハプニングもほかほかした思い出にかわる。

ホテルに到着したのは1時半すぎ。眠る前にスープとビールが飲めたらありがたい。24時間営業の食堂も多い韓国。ホテルの近くでまだ営業をしている食堂はありますかと受付の方に聞いてみると、ホテルを出て右のほうに歩いて行くと、すぐに東大門の市場があって裏道にいくつか営業しているところがあると思いますよと親切に教えてくれる。

荷物を置いてお財布を片手に早足で東大門方向へ。おいしいものレーダーを働かせたキヨちゃんが「ここにしよう」と指さしたお店の豚肉入りのキムチチゲ。強火でガンガン温められたスープはとろみがあってぴりっと辛く、冷たくなった体を芯から温めてくれる味。ビールと焼酎をきゅっと飲んで、釜炊きのごはんもそれぞれひとつずつぺろり。時間がたって釜にはりついたお煎餅のようなカリカリのおこげ。スッカラで剥がして、温め直したキムチチゲに浸して食べる。香ばしい香りとよりまろやかになったこくのあるスープがまた合う。明日のむくみなど気にせず、チゲに入った麺もツルツルすする。

人、本、音楽、深夜の食堂。旅の相棒にもうひとつ加えておきたいアプリKAKAOタクシーは、明日ダウンロードしよう。

珍道中になりそうな予感しかない旅が始まりました。

そういえばメリークリスマス!ですね。みなさま素敵な休日をお過ごしください。

こいけはなえの気になるもの。

(毎週土曜日更新)
マネージメントを中心に料理家と一緒にand recipeという会社をやってます。とにかく旅が好き。

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