おいしい皮。

夕飯を作る時間になって、さぁ何を作ろうかとしばしば思い至るのが雲呑。子どもが大好きで、「今日の夕飯なに?」と聞かれたときに、確実に喜んでくれるメニューだからということが大きい。

登場回数の多い小麦粉料理。時間がある時は皮から作るのがベストだけれど、雲呑だけはここの皮で、というお店があります。

木曜日の夕方。外に出ている子どもの帰り時間が近づいてきました。今日の夕食は、雲呑の鍋にしようとパッと思いついて幡ヶ谷から電車に乗る。近所のスーパーのひき肉コーナーの棚には、もちろん雲呑の皮は並んでいるのですが。都営新宿線に乗ってしまえば、乗り換えなし。20分以内に到着できる森下の駅まで、買い物用のバックを持って移動します。森下の交差点を背にして、清澄通りを8分ほど歩く。抹茶色の清洲寮の建物を過ぎて右折。「仲通り」という商店街に入ると、玉うどん・中華そばという文字の書かれた黄色い看板が見えてきます。

荒川食品深川支店。このお店を最初に教えてくれたのは、清澄白河に住む編集者の友人でした。お子さんを産んでからしばらく会えていなかった友人と、お昼ご飯を食べた後。「ここの製麺屋さん、麺はもちろん、あったらラッキーな雲呑の皮が、とてもおいしいんだよ」と、駅までの道すがらに話してくれました。

創業は昭和41年。朝7時から営業しているお店には、やきそば・各種うどんの麺(太麺・細麺・きしめん)・ゆでそば・中華そばなど。一人前ずつの袋入りで、売られています。

製麺所直送のお店。もちもちうどんや中華麺も食感がよく、とってもおいしかったのですが。友人のレコメンド通り、何よりびっくりしたのは雲呑の皮でした。餃子の皮も売られていて、そちらは見慣れている白い皮。雲呑の皮は餃子の皮の1.3倍くらいのサイズで黄色。スーパーで購入する雲呑の皮は白が多いのだけれど、ここの皮は黄色。卵が入っているのかなと思ったその皮の黄色のわけは、かんすいでした。ラーメンの麺に欠かせないかんすい。炭酸カリウムと炭酸ナトリウムの混合物に燐酸塩の加わった粉末。小麦粉のもつグルテンが、アルカリ性のかんすいに出会うと収縮をする。弾力が増して、コシと滑らかさが生まれるのだそうです。その食感もさることながら、「なぜ黄色に?」の答えは。小麦粉の持つフラボノイドの色素が、かんすいのアルカリ性に反応して淡い黄色になるのだそうです。(中華麺が黄色くなるのも、このかんすいの作用。)

たっぷりと大きな雲呑の皮。一口目はつるんと口の中に滑っていき、噛みごこちはもっちもち。喉を通るときには、スルッと食道に落ちていく。生姜とニンニク、ネギを刻んで豚のひき肉と混ぜ、塩・胡椒にオイスターソースをちょこっと垂らし、さらに練り合わせたタネを雲呑の皮で包む。鶏ガラスープと和出汁を合わせたスープで雲呑を煮込む。エビとパクチーのタネでもおいしいし、野菜を何種類か入れて一緒に煮込むと、1品でお腹いっぱいのおかずになる。

つるんとモチモチの雲呑の皮。大きなサイズ、雲呑が食卓のメイン料理に。

週末の昼ごはん用に、きしめんと中華麺も購入。駅に向かう大通りに出ようとした時、荒川食品さんのすぐ近くに、肉屋さんがあったことを思い出しました。雲呑に入れる豚ひき肉も、ここで買ってしまおう。

夕飯時。関川精肉店には、近所のお客さんたちがお肉や惣菜を求めて、ひっきりなしにやってきます。以前、このお店の前を通り過ぎた時には気づかなかったのですが。肉が並んだショーケースの向かい側に、小さめの冷蔵庫が4台置いてあります。その中には、肉と合わせて調理をするのに便利なもやしや小松菜、しめじなどが並べられています。

近所に、八百屋さんは見当たらない。ここで野菜を買って帰ることができたら、何軒もお店をはしごすることなく、買い物が早くすむ。雲呑の鍋、今日はもやしとほうれん草を入れよう。幡ヶ谷の駅に着いて、スーパーに寄らずにまっすぐ家に向かえるのは、とっても助かる。

冷蔵庫から野菜を取り出すのはセルフサービス。ほうれん草を取り出そうと、手を伸ばした冷蔵庫はピカピカに磨き上げられていました。

肉のショーケースの方に目をやってみると。こちらもピカピカ。お会計のカウンターの横には、揚げたてのコロッケが並んでいて、その下のショーケースには、小分けにしたキャベツの千切りが売られています。もしかしたら、常連さんからのリクエストがあったのかもしれないけれど、「あったらいいな」のサービスがあちこちに散りばめられているお肉屋さん。これは、お客さんがひっきりなしにやってくるわけだ。

この日、買って帰らなかったことを後悔したお惣菜たち。次回は必ず、インカのめざめと和牛肉のプレミアムコロッケとズワイガニのクリームコロッケを買って帰ると心に決めました。

森下の駅まで行きとは違った道を通って、急ぎ足で戻る。

今日は暑かったからラー油も入れて、少し辛いスープにしよう。

主菜の雲呑の皮は、今日も抜群においしい。そして、副菜のように発見した肉屋さんで買ったほうれん草は、とろりと甘く、あっという間にお鍋からなくなりました。

気になるお店を見つけたら、さっと買い物。時間にすると意外と近い街の、おいしいものを売るお店。そのリストが少しずつ増えていくのは、嬉しいことだ。

関川精肉店さんで買った豚バラと荒川食品さんで買ったきしめんで、今日は肉うどんを作ります。

分厚い夏の雲が空を覆っていますが、まだまだ暑くなりそうですね。皆様、良い週末をお過ごしくださいませ。

こいけはなえの気になるもの。

(毎週土曜日更新)
マネージメントを中心に料理家と一緒にand recipeという会社をやってます。とにかく旅が好き。

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