ただいま、おかえり。

何回その場所に通うと「ただいま」って言える場所になるのでしょうか。

御堂筋線なんば駅。新卒で入社した会社の本社がある場所。新大阪から地下鉄に乗り、なんばに着くとほっとして、今でもただいまという気持ちになります。入社したての頃。東京の面接から入社した同期みんなで劇場の裏のビジネスホテルに数ヶ月寝泊まりし、そこから配属された各劇場に往復していたからなのか。何ヶ月かそこに住んだら「ただいま」と言える場所になるんでしょうか。

韓国、金浦空港。なんどとなく通っている韓国の空港の中でも一番ほっとする玄関口。韓国語の学校に通い始めて、少したったあと。降り立った金浦空港のあらゆる看板が読める、わかる状況になった時。自然と「ただいま」という言葉が口からこぼれていました。

ネパールの玄関口、トリブバン空港。1度目はマレーシアで乗り継いでトリブバン空港まで。友人の妹さんが空港の出口で待っていてくれるものの、緊張していた1回目の入国検査場。2度目の渡航はタイで乗り継いでネパールまで。入国審査を待つ多種多様な国の人たちが並ぶ列を見ながら、不思議と「ただいま」という気持ちになっていた。

どの場所にも友達がいて、「おかえり」と言ってくれる人がいるからなのか。もちろんそれは大きい気がするけれど。

毎年3月11日になると「おかえり」と言ってもらえる場所に旅に出られることは幸せなこと。今年は3月12日、13日に気仙沼の女将さんたちの会、気仙沼つばき会が主催する『おかえり寄席気仙沼 立川志の輔独演会』が開かれることになって。お手伝いの仲間に混ぜて頂いたおかげで、気仙沼で「ただいま」を言うことができました。

前日の11日から気仙沼に入り、12日は朝10時に会場に集合。新しい場所に建ったばかりの気仙沼中央公民館へ。おはようございます!と会場に入っていくと、お迎えをしてくれるのはつばき会の会長斉吉商店の和枝さん。この笑顔を見ると「ただいまー!」と大きな声で言いたくなる。

会場の入り口とスタッフの控え室を走り回っているかこちゃんとみどりちゃん。かこちゃんは今回の寄席のリーダーを務めています。かこちゃんはいったい何人いるのか。スケジュール、会場とのやりとり、チケット周りの様々な手配、外の関係者への連絡などなど。何かわからないことがあると、みんながかこちゃんを探す。

受付のセッティングが終わると、入り口に小野寺コーポレーションの紀子さんが車でシュッと乗り付ける。「出船送りいくよー!」今日は「おかえり寄席」もありますが、第123勝栄丸の船出の日でもあるのです。別名「気仙沼盛り上げ隊」つばき会は忙しい。港に着くなりトランクを開けて、福来旗の入った箱を取り出す。船を見送る人たちにどんどん旗を配る。

船頭さんの挨拶とともに船が岸壁を離れると、少し遠くで紀子さんの「行ってらっしゃーい!」の声が聞こえる。強風にかき消されないようにありったけの声で「行ってらっしゃーい!」と後を追う。船にむかって、大きく旗を振る。

船が見えなくなるまで見送って、ありがとうございましたと言いながら福来旗を回収。また急いで会場の準備に戻る。

「は〜い!どんどん貼っていきますよー。」これもお客様へのおもてなし。沼のハナヨメさゆみちゃんの描いたポスターをありったけ貼っていく。壁一面のポスターを見ていると、自然とただいまという四文字が浮かんでくる。

円陣を組んで、申し送り事項とスタッフの紹介。つばき会以外のお手伝いの人には、背中に大きく気仙沼と書かれたハッピが配られる。袖を通して気仙沼の文字を背中にしょうと、ただいまを言う自分から「おかえりなさい」を言う人へ。すっとワープできる。

師匠の楽屋周りを一手に引き受けるほぼ日のとみさん。ハッピを着たら、動きも自然とつばき会の人になる。

強い風の吹く中。お客様が安全に駐車できるようにご案内するチームは、秋田からお手伝いに来てくださっている南部さんがリーダー。

そうこうしている内に、あっという間に開場の時間。ロビーでは「おかえりなさい」の声があちこちで響く。ハッピを着ると気恥ずかしさはどこへやら。「おかえりなさい。ホールの開場までもう少しお待ちください」自然と声が出るから不思議。

写真を撮る間もないままに、初日は大盛況で終了。明日は朝8時からみしおね横丁でマルシェがある。こちらもつばき会さんの主催。「じゃ、明日みしおねに6時半ねー!」軽やかに会場を後にするつばき会の皆さん。明るいパワー、朝夕関係なし。

「ここのクレープがおいしいんだよ!あ、ごめん。マスクマスク。」13日。朝ごはんを食べようと朝8時半すぎにマルシェに到着。東京組を見つけるや否や、ご飯中だった紀子さんが立ち上がって教えてくれる。いやいや食事中にこちらの方がすみません。マルシェに出店しているお店のこれがオススメ、これは食べてってー!とレコメンド。紀子さん、ずっと寝てないはずなのに疲れを微塵も感じさせない。クレープ、買います買います!

「生地がうんまいの。」そう教えてもらったら、やっぱりシンプルなクレープに。バターとお砂糖。うんまい!朝一のクレープで前日の疲れが一気に吹き飛ぶ。

みしおね横丁に来たら、ここに行かないわけにはいかない。鶴亀食堂で朝ごはん。店内は満席。外のテーブルでも全然OKです。クレープの後。武山米店さんの屋台で焼き餅を食べて、タイ料理の屋台でチキンを頼んで。チャイを飲んでからのここ。いいんです。食いしん坊は今日もいっぱい働くから、朝もがっつりでいいんです。で、楽しみにしていた漬け丼がやってきた。

あぁ、まんぷくってお腹をなでてる場合じゃない。そろそろ集合時間。会場へGO。

今日もにぎやかなつばき会の皆様。円陣を組んでエイエイオー!2日目は心の余裕もたっぷりでみんなの笑顔が柔らかい。

2日目も全力で「おかえりなさい!」。今日も志の輔師匠の紺屋高尾がすばらしく、笑ったり泣いたり。

あっという間に2日間の寄席は、終わりの時間に。

お客さんたちを送って、最後に会場に来てくれたさゆみちゃんの息子あらた。率先して片付けを手伝ってくれます。びっちり書かれたホワイトボードが白くなっていくと、なんだかちょぴり寂しくなるね。

師匠をお見送りする前に。スタッフみんなが集まって、和枝さんからおつかれさまでしたの挨拶。気仙沼がご縁で夫婦になった順平くんとちあきさんからも一言。紺屋高尾と重なって、なんだかうるっと来てしまう。

スタッフの皆さんにと師匠から頂いた特別なてぬぐいが配られます。静かに湧いてくる拍手。

お見送りをするまでが遠足。じゃなかった寄席です。つばき会さんのお見送りは伊達じゃありません。宮城だけに。いや、つばき会さんだけに。

「あ!師匠がいらしたかも、みんな旗を持って!」

はい、お見送りのリハーサル。

見てください。さっきまで志の輔師匠に扮していた紀子さんの旗をふる腕の伸び。全力で旗を振りながら、つばき会の皆さんが口にする言葉は「いってらっしゃーい!」。こんな風にお見送りをしてもらったら、また帰ってくるしかないでしょう。それはそれは、みんな帰って来たくなっちゃうよー。

会場の片付けをして、みなさんに挨拶をして。東京に帰るとみさんとふたり。気仙沼の駅までさゆみちゃんが送ってくれました。11日、気仙沼に到着してほぼ日の皆さんが集まっているプラザホテルに顔を出した時にもらった昆布には、パッケージのひとつひとつに「おかえり」の文字。さゆみちゃんの手によるものだった。

帰り際、会場を出ようとするわたしたちに駆け寄ってきてくれた横田屋さんのくにさん。「新しい商品、評判いいのよ。東京に戻ったら食べてみて」かき醤油味の海苔にお腹が鳴る。最高においしくお米を炊いて、朝ごはんに頂きます!「小池さん、これ持っていって」和枝さんから手渡された紙袋には冨田さん、小池さんと名前の書かれたお弁当と斉吉さんのバタークッキー。今回のイベントの立役者かこちゃんからはかわいい手描きの気仙沼の地図をもらいました。新しいお店の情報、これでアップデートしてまた来るね。「また来てねー!迎賓館でいつでも待ってるから」紀子さんのおうち、迎賓館。次回はお言葉に甘えて泊まらせてください。

帰るのがさみしくなっちゃう場所でもある。でもまた来るのがいつだって楽しみな場所でもある。そこに着いた時からなんだかさみしくなる場所は、「ただいま」と言いたくなる場所。おかえりを言ってくれる人がいるところ。

来年もまたこの場所でただいまを言えますように。おかえりなさいを言う仲間に混ぜてもらえますように。

コートはもういらないかと思ったら、昨日はタイツをひっぱりだす寒さ。この3連休はあたたかくなりますように。

今日もお読みいただき、ありがとうございました。みなさま、よい週末をお過ごしください。

こいけはなえの気になるもの。

(毎週土曜日更新)
マネージメントを中心に料理家と一緒にand recipeという会社をやってます。とにかく旅が好き。

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