やわらかく、形をかえる。

京都に来るのは何年ぶりだろう。

前回は、雨が降ったり止んだりしていたのだけれど。今回は快晴。京都タワーの周りには雲がひとつもなく。真っ青な空に白と赤が映える。京都タワーが目に入ると、頭に流れてくるのはやっぱりくるり。「TOWER OF MUSIC LOVER」ワンダーフォーゲルが流れてくると気分があがって、旅感も高まる。

いやいや、今回は旅じゃなくて、お仕事なんです。BALMUDAさんのイベント。五条にある「もやし町屋」で、ファンのみなさまとマスコミの皆さんにBALMUDA The TOASTER Proを使ったお料理を召し上がっていただく昼と夜の回のお手伝い。イベントの開催は11月2日。前日に京都に入って、買い出しや仕込みをする。

タクシーで会場に向かう途中、紅葉はまだですか?と運転手さんに訊ねてみると、まだもうちょっとですねとのこと。紅葉が始まっていないのに、やっぱり京都は大人気。駅は海外からのお客さんも日本人も入り乱れてすごい人でした。行き先であるもやし町屋の住所を伝えると、地図を見せてくださいとおっしゃる。住所は船屋町なのだけれど、運転手さんの頭の中には通りの名前で京都の地図が入っているらしい。

「京都の上ル、下ルが難しくて」と話すと、「上ルが北、下ルが南を指しているんです。あとは東入ルは読んだまま東、西入ルも同じ。西のことを表しているんです。簡単でしょ。」

京都の方には、きっと当たり前の知識。初めて京都に訪れた修学旅行から、何十年来の謎が解けました。

もやし町屋という少し変わった名前の貸しスペース。なぜもやしなんだろう。栗大福の文字に吸い寄せられて入った、会場からすぐ近くのお菓子屋さん「橘屋」さんのご主人がその理由を教えてくれました。

「中に室(ムロ)があったでしょう。昔はあそこで麹を育てていたようですね。」

もやし麹とは、なんぞや。野菜のもやしと麹は、頭の中で直線ではつながらない。大豆は味噌の原料だから発酵はするけれど、麹菌は茹でた大豆に追加する。調べてみると、醸造関係者の中では麹の種菌のことを「もやし」と呼ぶのだそう。もやし、萌える。芽が出るという意味があり、麹が芽吹く姿からもやす〜もやしと呼ぶようになったという説が出てきました。そういう意味のもやしだったのか。そこからしばらくお喋りは続く。

橘屋さんには栗大福のほかに若鮎や栗入りのどら焼きも並んでいました。

「大福とどら焼きもふたつください」

「夏の間はどら焼きはやっていなかったんですよ。どら焼きの生地はふっくら焼きあげなければいけないので、夏は温度の管理が難しい。若鮎は記事がもう少し薄いので通年お出ししています。」

「こどもがどら焼きが大好きなので、この季節に来てよかったです。」

そう伝えると、奥からどら焼きを焼くさじを持ってきてくださった。長い柄のついたさじ。まだ会社を始めたばかりの頃、いただいたケータリングのお仕事でどら焼きを焼き続けたことがある。銅のどらさじは柄が短く、きれいにフライパンに注ぐのが案外難しい。なるほど柄が長ければ、フライパンに注ぐスピードも早いし、きれいな丸になる確率がもっと上がっていたのかも。

「実はこれ、蛇目傘の柄なんですよ。ちょうど長さがぴったりでね」

黒い漆に竹の持ち手がついていて、滑らないようになっている。ちょうど真ん中のあたりを持って手首を返すときれいな丸になるそうだ。

「こっちは父が使ってたものなんです。母の田舎の名産が煤竹でね。のれんをかけていた煤竹を切ってさじにつなげたものなんですが、僕の手の大きさにはちょっと合わなくて。」

長年、布が行ったり来たりしていたであろう煤竹は飴色に変化して、おいしいどら焼きを焼くためのサポートという新しい役目を授かっていた。今回イベントでお邪魔しているもやし町屋も、麹を作る場所から、人の集まるところへと新しい変化を遂げていた。

一旦全部を壊してから、新しくものを作ることもひとつの方法なのかもしれないけれど、いいところを残しながら、その時代に合わせて、その時代に生きている人が喜ぶ形で使い続けていける道具や場所には、心が無理のない速度で動く魅力がある。京都では、そういうものにたくさん出会うことができる。

京都に来るといつも変わらず私たちを迎えてくれる京都タワーも、開業からもうすぐ59年になるのだそうです。1953年に移転の決まった京都郵便局は、現在の京都タワーの立つ位置にあった。京都の玄関口であるその場所に、産業と文化と観光の一大センターを作ろうと株式会社京都産業センターが設立された。1964年に東海道新幹線が開通。オリンピックの東京大会が開かれた年でもある1964年の12月25日に京都タワービルが竣工。3日後の12月28日にタワーの展望室が開業された。開業50周年である2014年には、京都タワーのエレベーターがお寺をイメージする金と銀に塗り替えられたのだそう。そういえば、京都タワーは外から眺めるばかりで、展望台にのぼってみたことがなかった。次回は、展望台から京都を眺めてみよう。タワーからの京都は、どんなふうに見えるんだろう。

イベントのあった11月2日はand recipeの創業記念日でした。会社がスタートしてなんとかかんとか8年が過ぎました。お仕事をご一緒してくださる皆様、商品をご購入くださったお客様、イベントに参加をしてくださった皆様。すべての方々に支えていただいて、9年目をスタートすることができています。ありがとうございました。そして、いつもありがとうございます。

そんな日にたまたま京都にいて、形を少しずつ変えながら、長く人々に愛されているものを直接目で見て、感じられたことことは、なんだかとてもありがたいご縁でもありました。今回声をかけてくださったさとみさんに感謝感謝です。and recipeも柔軟に形を変えながら、長く愛される、長く誰かの心に残る何かを作っていくことのできる会社にしていけるように。9年目も動いていきたいと思います。

毎週土曜日、大切な時間を使ってSAKRA.JPを読んでくださる皆様にもいつも感謝をしております。「前にSAKRAに書いてあった〇〇」と話してくださるのを聞く度、心がぽわっと温かくなって、力が湧いてきます。ありがとうございます。

東京はいいお天気。今日は写真のワークショップ。そろそろハンバーグをオーブンに入れなければ。

今週もおつかれさまでした。よい週末をお過ごしくださいませ。

こいけはなえの気になるもの。

(毎週土曜日更新)
マネージメントを中心に料理家と一緒にand recipeという会社をやってます。とにかく旅が好き。

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