夏、アジフライ。

2022年の8月はイベントが戻ってきた。もちろん相変わらずマスク姿で「いらっしゃいませ」ではあるし、テーブルごとにアルコールを置いた状態ではあるけれど。

料理のイベント、まずは大量の買い出しが必要になる。2、3人前の元レシピを大量調理用に計算。必要な食材の数量を出す。ノートに書き出したりエクセルに数を入れながら、なす30本・トマト35個の重みがずっしり肩にのしかかる。どっさり調理をする時に、この買い出しさえクリアしてしまえば、あとは手首や腰のしんどさは若干あれど、頭は「無」のいい状態。ひたすら野菜をカットしたり、大量に焼いたり、揚げたりするのは楽しい。タコスの生地をひたすら30gずつ量っていくのも楽しいし、トマトを1cm角に切り続けるのも楽しい。手が同じ作業を繰り返して、ある状態のものが量産されていくときの「無」と「達成感」の波が行ったり来たりの状態。

そんな8月の「無」祭りの締めは、アジフライでした。

バーベキューの会場で、その日の朝に東京湾で釣ってきた鯵をフライにするお仕事。買い出しはタルタルソース用の卵とフライ用パン粉のみでOK。50匹の鯵。捌くのは大変だけれど、アジフライの背開きって楽しいんですよね。しっぽの方から包丁を入れて、ぜいごがきれいに取れた時は爽快。包丁の先でがりがり鱗をとって魚を水洗いする時、身を触ってきれいに鱗が取れていると、また爽快。頭を落として内臓を取り出し、血合の部分にちょっと包丁を入れてまた水洗い。身がきれいになると気持ちがいい。できるだけ身をそがないように骨ぎりぎりのところに包丁がすっと入るとまた爽快。身を人差し指でなぞって小骨を抜いていく時も、いっぱつで骨が抜けて、身はきれいにしまった状態だとまた嬉しい。

そしてなんといっても、アジフライは食べておいしい。捌いた鯵をバットに並べて塩胡椒をし、生姜をすって日本酒をふりかけながら、アジフライってどこが起源の食べ物なのかが無性に気になった。洋食?和食?どのカテゴリーにも当てはまりそう。

おいしそうにじゃんじゃん揚がっていくアジフライ。
全部食べるわけじゃないのに、至福の時間。

そもそも鯵は日本でいつ頃から食べられていたのか。調べてみると縄文時代から食べられていたという記載。平安時代には行事食に使われるほど、今も昔も「鯵」はおいしい魚という人々の認識は変わらないようです。

「鯵」が魚偏に「参」と書く理由。鯵は群れをなす習性の魚。「参」という漢字には群がり集まるという意味がある。この群がって集まることを「あち」といい、この音がにごって「あぢ」となり、鯵たちは「あじ」という名前になったという説。また「味が良い」から「あじ」になったという説もうんうんとうなづける。江戸時代中期の政治家で儒学者の新井白石の書いた語源辞典『東雅』にある記載によれば、「或人の説く鯵とは味也。その味の美をいふなりといへり。」とある。おいしい魚だから「あじ」。

干物も刺身もおいしい鯵。でも「鯵+フライ」になった時に、やっぱり一番お腹が減る。フライは海外から入ってきたものだよね。また江戸時代にワープ。この頃の日本の揚げ物といえば天ぷらが主流。大量の油を使って素材を揚げる「ディープ・ファット・フライング」を用いるのが日本の揚げ物の特徴。それに対して、西洋では少量の油で揚げる「シャロウ・ファット・フライング」がメインの揚げ方だった。体のことを気にすると「少なめの油で」とも一瞬思ってしまうけれど、やっぱり大量の油でカラッと揚げる方がおいしく感じてしまう揚げ物大好き人間です。

明治の初期にパン粉が日本に入ってくると、コートレット(カツレツ)やクロケット(コロッケ)のようなパン粉をまぶした西洋の料理も日本に持ち込まれるようになった。ここに、大量の油を使って揚げるディープ・ファット・フライングの技術が出会って、現在の日本のフライ調理の形になった。

パン粉が商品化されたのは大正5年。大量調理にも向いていたフライが給食にも取り入れられるようになって、一般化。

大元の起源は西洋にあるけれど、「アジフライ」は和食といっても過言ではない食べ物になった。

おいしい鯵。お隣の韓国ではどうやって食べられているんだろう。鯵を意味する전갱이(チョンゲンイ)で画像検索をしてみる。

鯵のお寿司や大根と鯵の煮物に並んで「전갱이튀김(チョンゲンイトゥイギム)」アジフライの画像がずらっと出てくる。「アジフライ」というカタカナと「전갱이튀김(チョンゲンイトゥイギム)」とハングルが並ぶパッケージのアジフライの冷凍のパックもある。「전갱이튀김 맛집(チョンゲンイトゥイギム マッチプ)」アジフライの美味しいお店という検索ワードも出てくるくらいだから、韓国でもおいしい食べものとして認識されているということがわかる。

塩で食べるのもいいし、醤油派、ソース派、意見が割れそうですが今回のアジフライにはタルタルソースを合わせました。ピクルス、玉ねぎ、茹で卵を大量に刻む「無」祭りも楽しい時間。一年中獲れて、一年中おいしい鯵だけれど、夏から秋が旬の鯵。釣りたての新鮮さもあいまって、ほくほく格別なアジフライでした。

ザクザクと食材を刻んでいる間に、夏が過ぎていきつつある2022年。鉄板で大量に焼いた焼きそばとか、練乳のたっぷりかかった苺のかき氷とか。夏に食べておきたいものがまだたくさんあるから、もう少し行かないで〜と願いつつ。

みなさま、2022年残りの夏もたのしくお過ごしください。今週も一週間おつかれさまでした!

こいけはなえの気になるもの。

(毎週土曜日更新)
マネージメントを中心に料理家と一緒にand recipeという会社をやってます。とにかく旅が好き。

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