夏の日差しに負けない色。
今週木曜日、J-WAVEの「GOOD NEIGHBORS」にお邪魔する機会をいただきました。とても久しぶりにクリス智子さんにお会いして。美しい声にうっとりしていたら、あっという間に30分が経過していました。ゲスト出演終わりの短い時間。「中間考査って確かに緊張感のある言葉ですよね」とクリスさんがひとこと。前々回のSAKRA.JP。読んでくださっている。あぁ、ありがたいなぁ。嬉しい気持ちのまま、今週も気になる場所に出かけました。
ここ3ヶ月ほど、ドラマのフードのお仕事をいただいてand recipeはてんやわんやでした。長時間の立ち仕事。45歳にもなると、ダイレクトに翌日身体にこたえます。20代、新卒で入った会社のマネージャー時代。立っている方が楽だと、思っている時期もあったのに(今となっては、それはそれでいかがなものか、とも思いますが)。身体のいろんなところから、「痛い」と「筋肉痛」だと、ざわざわ囃し立てる声が聞こえます。
身体が「しんどい」と感じると、心にも疲れがやってくる。気力であと半月乗り切らなければいけないのに。
事務所から自宅への帰り道。必ず通過する古着屋さん、OKIDOKIのショーウィンドウが目に止まりました。メキシコのプエブラ州で作られている花の刺繍たっぷり施されたのワンピース。白い綿の生地に、目が覚めるような色で刺繍が散りばめられています。形から入ることも時に有効。気力の方のエンジンをかけるために、元気な色のワンピースを購入しました。
調べてみると、メキシコの刺繍にもいろいろある。パンジーの刺繍が有名なオアハカのサン・アントニーノ村で作られたもの。細かく美しい刺繍に息を飲みますが、胸元に「a ver si puedes(アベルシープエデス)」「hazme si puedes(アスメシープエデス)」という刺繍の技術が施されることがあるそうです。スペイン語で「作れるものなら作ってみなさい」という意味。着用時、自然と背筋が伸びそうです。
今回購入したワンピースは、プエブラ州にあるSan Gabriel Chilacのもの。チラク村では、1960年ごろから刺繍のワンピースやブラウスが作られるようになり、今でも手刺繍で生産が続けられているのだそうです。花や鳥のモチーフの、元気が出る色の刺繍。旅ができるようになったら、いつか行ってみたい場所が一つ増えました。
刺繍のことを調べていくうちに、谷中にある「東欧民芸クリコ」というお店のことを知りました。
店主栗山加奈子さんが東欧諸国を巡り、蚤の市などで買いつけた美しい民族衣装や雑貨を扱うお店。「旅のカケラのおすそわけ」栗山さんが本に書かれていた言葉です。谷中、根津、千駄木。思えばゆっくり歩いたことも、なかったのでこの機会に行ってみることにしました。
六本木から日比谷線で日比谷まで。千代田線に乗り換えて、根津に到着。ちょうど駅の階段を上がったところで、携帯の充電が切れました。Google マップなしでクリコさんまで、たどり着けるのか。確かお店は谷中キッテ通りという雑貨屋さんと洋服屋さんが点在する通りにあったはず。地域のマップを見てみると、信号を渡って左方向に歩いていくと、住所が谷中に変わるようです。道に迷ったら、近くの人に聞きながら歩いてみればいいかと、とりあえず出発することにしました。
不忍通りと言問通りの交差する信号を渡って左方面。1本目の路地を覗いてみると、定食やめしの文字が並んでいる。現在の時刻は15時すぎ。定食屋さんは休憩の時間だけれど、次回来たときの下見にと曲がってみることにしました。
路地を入ってすぐ目に入ってきたのは「クリームあんみつはじめました」の看板。うん?どこかで見覚えのある亀のイラスト。あんみつと亀?
見慣れた亀のお店は、亀の子束子のフラッグショップでした。明治時代から続くお馴染みの束子はもちろん、我が家でも愛用している銀イオンを練り込んだスポンジ。オレンジや緑のスポンジが並んでいます。
「初めて来てくださったんですか?」
「そうなんです。あんみつの文字に惹かれて入ってみたら、亀の子束子さんのお店でびっくりしました。」
「ここ、元々銭湯だった建物なんです。今は営業していないんですが、飲食店さんもお隣に入る予定で。天井が高くて、気持ちが良くないですか?よかったら写真もどうぞ」
オススメしていただいたボディブラシも購入を迷いつつ、今回は台所用のスポンジを買い足しました。
SENTOビル。いい名前だ。
今日も寄り道が多くなりそうな予感しかしないけれど、キッテ通りを目指します。
どの街に行っても、花屋さんを見かけると、気になって覗いてしまう。建物の静かな佇まいと、そこに置いてある花の息づかいがぴったりと合っている花屋さんを通り過ぎると、日用雑貨のお店が目の前に現れました。台湾や韓国で。こういうお店に出会うと、必ず足が吸い寄せられる。籠とざるのトラップ。いくつもあるのに、なんでまた欲しくなってしまうんだろう。
店内を薄めで見ながら、このお店の前を右折してみることにしました。
静かな住宅街の中にポツポツとお店が続いていきます。きっとこっちの方角。旅している時の勘を呼び起こして、どんどん歩く。幅の広い道路に出たので左折。電柱に貼り付けられた住所には、谷中の文字。よかった。こちらで、方角は間違っていないようです。
病院の前に咲く青紫の紫陽花が満開。ここから道が急に細くなって、小さな本屋さんや雑貨屋さんが現れました。キッテ通りに通じる匂いがする小道。鞄屋さんやカフェを通り過ぎて、もう一度左折。さっきよりも道幅の広い通りに出ました。ペールブルーの格子の壁に「谷中キッテ通り案内」と書かれた水色のBOX。
キッテ通り。青のイメージが脳内に定着しました。
グーグルさんに頼らず、キッテ通りにたどり着いたことにほっとしつつ、まだまだ進みます。
左手に「ツバメハウス」の看板を発見。
このお店にも、東欧の刺繍が施されたワンピースがたくさんあるらしいということは調査済みでしたが、今日の主役のクリコさんを目指します。お店がびっしりと並んでいるわけではなく、住宅街の中にぽつんぽつんと点在する宝探しのような場所。初めて旅する海外で、気になるお店を目指して歩いている間に、新たに気になるお店に出会ってしまうあの感じ。谷中キッテ通りで旅の気分を味わいながら、進みます。
気持ちがいいなぁとのんびり歩いていたら、クリコさんをうっかり通りすぎました。誰かに見られている気がして振り返ると、instagramで見慣れた刺繍のタペストリーが夕暮れ時の気持ちの良い風に揺れています。いくつものグラデーションのある緑。赤、黄色、ショッキングピンクの刺繍の美しい色を見ていると、なんだか元気になってくる。
店先の椅子に座っていた店主の栗山加奈子さんが、「どうぞどうぞ」とお店の中に案内してくださいました。
気になっていた東欧の刺繍のワンピースやブラウスたちは、左側のラックに並んでいます。ルーマニア・オステリア地方のブラウス、ハンガリー・カロチャ地方のベストなど。1点ものが並びます。
「このあたりのお洋服は一期一会で。気になる子と出会うタイミングは、いつやってくるかわからないんですよね」
ウクライナ・カルパチア地方のソロチカ。葡萄や苺のような房ものの果物の模様は、家族を表しているのだそうです。裾や襟に施された刺繍は、魔除やお守りの意味があり、連続する模様は永遠を表しているのだとか。
ワンピースやブラウスが、なぜソロチカ=SOROCHKAと呼ばれるのか。ソロチカは、ウクライナ語で「40」の意味を表す「corok(ソーロク)」から来ている。40は糸の太さを表す番手の番号。細い糸を使った高級な布という意味でソロチカと呼ばれるのだそうです。
「手仕事を見ていると、なんでこんなに元気をもらえるんですかね」
栗山さんのひとことに大きくうなづく。
お邪魔した日は気温が暑すぎたせいもあって、しっかりした布にたっぷり刺繍の施された長袖のワンピースやブラウスを連れて帰るには至らなかったのだけれど、OKIDOKIで購入したメキシコの刺繍のワンピースにぴったり合いそうなレースのピアスを買いました。スロバキアからやってきたピアス。栗山さんの旅のカケラのおすそわけ。
東欧は訪れたことのない国ばかり。刺繍を訪ねながら東欧を巡る旅。遠くない未来に、ぜひいつか。
『旅と刺繍と民族衣装』(誠文堂新光社刊)2020年の4月、コロナで旅に出られなくなった時期に出版されたクリコさんの本も購入しました。本の中には、栗山さんが東欧で出会った「旅のカケラ」と称された美しい手仕事の数々が掲載されています。どれだけの時間をかけて、この刺繍が完成したのだろう。気の遠くなるような、丁寧な手仕事が施された民族衣装。ため息の出るものばかりです。
「本、買ってくださるんですか?」
一緒に、特別なイラスト入りのカードもプレゼントしてくださいました。
いただいたサインは、元気の出るグリーンで書かれていました。
世界の手仕事と美しい色にたくさんのパワーをもらって、6月後半もなんとか乗り切れそうな気がしてきました。
暑い日が続きますが、皆様どうぞ良い週末をお過ごしください。