軽やかに親切な人々。

火曜日から1泊2日でソウルに行ってきました。

東大門総合市場の縫製のお店にお願いをしていたガーゼのクロスが出来上がったので、検品とピックアップ。そして、来週15日から始まる「おかっぱとボブの旅とごはんの話 夏編 『なべとすいか』」で販売する台所道具の追加の買い付け。

朝8時に東京を出て、14時30分すぎに仁川に到着。ほぼ空っぽのスーツケースをごろごろ引きながら、その後の動きを考える。まずは一度ホテルにと思ったけれど、スーツケースをそのまま持っていく方が移動が楽。釜山の台所道具店では、お店から直接日本まで郵便を出してもらうことができたけれど、ソウルではどうかわからない。17時に約束をしている東大門市場のお母さんに会う前に空港からそのまま台所道具を見に行ってしまった方が、明日は少しのんびり過ごすことができる。行き先をホテルのある乙支路3街から新堂に変更。空港から直接、厨房用品と店舗用の家具の店が並ぶ黄鶴洞厨房家具通りへ向かうことにしました。

東京を出た時にも、空に入道雲がもくもくと上がっていてとても暑かったけれど、地下鉄2号線の新堂の駅を出ると、思った以上に日差しが強い。飛行機のクーラー対策で薄い長袖のブラウスを着てきたことを心から後悔する。ガラガラとスーツケースをひきながら軽い傾斜の坂を登ると、厨房機器の並ぶ黄鶴洞厨房家具通りが見えてきました。とっても暑かったこともあって、いつも台所道具を購入する店に行き着く前に、商品を見ながらお店の中で涼むことを思いつく。そこでお目当ての商品があれば助かる。「BIG SALE」と外のガラスにでかでかとカッティングシートが貼られていることにも惹かれて、初めて訪問するお店の扉をあける。

「어서오세요!뭘 찾으십니까?」(オソオセヨ!モル チャジュシンミカ?)

何を探していらっしゃいますかと店主の方から声をかけられて、アルミのお盆と鍋を探していることを伝える。韓国の台所道具の専門店では、店内には置いていない商品でも、店舗のカタログにある商品は倉庫に電話をかけてすぐに持ってきてもらうことができる。カタログのページをぱらぱらとめくって、鍋の深さはどっち?大きさは何センチ?質問に次々答えていくと、すぐにお目当ての商品を探し当ててくれました。

これです、これです。小さいものを10個、真ん中のサイズを4つ、大きいものを2つお願いします。ぴぴぴと電話をかけて、お願いした商品を倉庫から運んでくれるよう、注文をしている。

商品が届くのを待つ間、お店の中を見ていると「こんなに暑い中来てくれて。そういえば、こないだも日本からお客さんが来たんだよ。何か、冷たいもの飲みますか?コーラ、サイダー、アイスコーヒー、何がいいかな?」と思わぬ一言。そんな、いいんですかと恐縮しながらコーラをお願いするとキンキンに冷えた赤い缶のコーラが登場しました。小さいサイズがちょうどいい。コーラの炭酸の強さに負けないくらい、喉が乾いていたせいか一気飲み。ぐふっとならずにこんなに一気にコーラを飲めるもんなんだ。深く頭を下げながらご馳走様でしたと告げると、さっとコーラの缶を手にとって、商品が届くまで椅子に座ってゆっくり待っていてくださいと声をかけてくれました。

程なくして商品が届くと、スーツケースの中でお盆がバラバラに動かないように黄色のPPバンドでくるっと巻いて渡してくれる。東大門での約束がせまってきた16時30分。電車で移動となると、階段のアップダウンがこの荷物ではきつい。駅でいうと1駅の区間。東大門市場まで歩くとすると、ここからどのくらいですか?と質問すると「この前の道をまーっすぐ行って、突き当たりを右にまがる。そうすると一帯が東大門市場のあたりだよ。歩いて10分くらいで到着できると思う。」と教えてくれました。10分なら歩いてしまうほうが早い。親切にしてくださったお礼を告げて、店の外に出ました。

外は夕方の西日が強く歩道を照らしていて、頭上ではセミが力を振り絞って鳴いている。日本とあまりかわらない午後の光と音。左手で日差しを遮りながら東大門市場までまっすぐ歩く。暑いけれど、普段電車に乗ってしまうと気づかない景色にたくさん出会う。こんなところに高校の校舎があったんだ。見慣れたミリオレのビルには太陽の光が降り注いでいる。一駅分の距離、こんなに近かったんだということも、歩かなければ気づくことができなかった。

久しぶりに会う、縫製をお願いしているお母さんのお店に急ぐ。

お久しぶりです!と挨拶をして、成田で慌てて購入したお土産のお菓子を渡すと、お願いしていたガーゼクロスを出してきてくれました。出来上がりを確認して一緒に数を数え、お金を支払う。いつも忙しくミシンを踏んでいて、ミシンのそばを離れる姿を見たことがないお母さん。わたしのスーツケースと大きなバックを見て、一緒に上まで運んであげると言って、荷物をひょいと抱えてくれました。となりのお店の別の社長さんが「こんなに親切にしてもらったら、もう少し縫い物のお代をはずまないといけないんじゃない?」と言って笑いながら送り出してくれる。暑さと荷物の重さでその場は「確かに、そうですね」と笑ってやり過ごしてしまったけれど、あとで落ち着いて考えてみると、あの社長さんのおっしゃる通りだったかもしれない。

夕方、退勤の時間で道はとても混んでいる。東大門の市場が閉まる時間がせまっているのに、空車のタクシーを探して一緒に待ってくれる。あとはなんとかできるので、店じまいをしてくださいと感謝をつげると「ほんとうに大丈夫?」と少し心配しながら、ビルの中に帰っていくお母さん。

その背中を見送ってから、タクシーは諦めてまた少し歩くことにしました。アイスを買おうとコンビニに寄るとレジに座っていたハルモニが「そんなにたくさん荷物を持って。暑かったでしょう。ここに荷物を置いてゆっくりお店を見ていいよ」と気づかってくれる。店内のアイスクリームのショーケースの下にはダンボールのゴミ箱が置いてあって、暑さにまいったお客さんたちがいてもたってもいられず、ここで購入したアイスをすぐに開封していることがわかりました。わたしも同じように、購入したパピコタイプのソーダのアイスのパッケージをあけて、頭を切る。右手にはスーツケース、左手にソーダのアイスを持って店を出る。まだ強い西日の照りつけるソウル。空の水色と同じ色のソーダのアイスは、カラカラの喉を潤して、あっという間にお腹におさまりました。

まだまだ日本も暑い日が続きそうですね。早いお盆休みに入った方もいらっしゃるのでしょうか。みなさま、どうぞよい夏休みをお過ごしくださいませ。

そして、東京に残っていらっしゃる皆様。お時間がございましたらぜひ、浅草「梅と星」のイベントにも遊びにいらしてくださいませ。8月15日(火)〜8月27日(日)まで、9時〜17時のオープンです。8月21日(月)のみお店の定休日のため、展示と台所道具のお店もお休みとなります。CREAでもイベントのお知らせ記事をアップしていただいたので、こちらにリンクをいたします。(編集部の皆様、ありがとうございました!)

皆様のお越しを、心からお待ち申し上げております。

こいけはなえの気になるもの。

(毎週土曜日更新)
マネージメントを中心に料理家と一緒にand recipeという会社をやってます。とにかく旅が好き。

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