贈り物を選ぶ。

大きくなったなぁ。中学3年生の息子がお小遣いで母の誕生日プレゼントを買ってくれました。

高校受験直前。毎日遅くまで塾に通うこどもが、授業の合間の時間を使って、購入してくれたプレゼント。

先週の金曜の夜。遅い夕飯の後「これ、プレゼント」と渡してくれた藤でできた箱を開けると、ベトナムのバッチャン焼きの小物入れが出てきました。

15世期頃、ベトナムで最初に作られたというバッチャン焼き。ハノイから南東に10km降ったバッチャンという村で作られている焼き物。村に住む9割の人々が、焼き物の仕事に関わっているそうです。バッチャンという村の名前に意味があるかを調べてみると、ありましたありました。「bát=バッ」は鉢で、「tràng=チャン」は場所という意味。カタカナの「バッチャン」としてしか認識のなかった場所が、急に色づいて感じられます。明朝時代の中国の陶磁器に影響を受けているというバッチャン焼き。アジアの匂いはもちろん、不思議と西洋の匂いもするあたたかみのある焼き物。

昨年の12月、初めてハノイを訪れた時ハンザ市場の地下で購入した麺の鉢とコーヒーカップ。赤と緑の菊の柄の器を買ってきたのですが、同じ柄の小物入れを選んでプレゼントをしてくれました。

「どこで買ったの?すごいね。ママが最近ベトナムの器を買っているのを覚えてくれてたの?」

「塾の近くで雑貨って検索して、出てきたお店で買ったんだ。」

「初台でベトナムの雑貨が売ってるお店っていうと…。もしかしてtayっていうお店だった?学芸大学にある333っていうお店の姉妹店でね。前から行きたいと思ってたんだけれど、まだ行ったことなかったの。大事にするね。」

ピアスを入れるのにぴったりのサイズの小物入れ。雑貨で検索して出てきたお店が、ベトナムの雑貨を扱うお店で、以前SAKRAJPにも書いた学芸大学の333の姉妹店だったということにも驚き。なんとも嬉しいセレクト。そして何より子供が自分で選んでくれたものというのが、母の宝物の一番の要素なのだけれど。

誕生日の翌日。子供の塾の前に、オペラシティで一緒にパスタを食べ、その帰りにtayさんにお邪魔してみました。

「中学生の息子がこちらでプレゼントを買ってくれたんです。きれいな包装もありがとうございました。」

「対応させていただいたのが私ではなかったんですが、珍しいお客さんが来てくれたと、スタッフの間で話題になっていたんです。中学生のお子さんが入るのには少し緊張するお店だったと思うんですが、喜んでいただけてよかったです。」

ベトナム語で「手」を表す名前のついたお店。ベトナム語のTayはテイと読む。バッチャン焼きの器や、東南アジアのヴィンテージ、藤や木で作った民芸品や古道具、カレン族、ルア族、ヤオ族など東南アジアの山岳民族のセレクトした美しい刺繍の入った布物やアクセサリーなどの雑貨がそろうお店。

照明を落とした広々とした店内。ガラスの大きな扉を開ける時はドキドキしただろうな。お店の右側にずらりと並ぶバッチャン焼きの器を見ながら、子供の目線を想像する。まず白とブルーの器を見て、その奥にあった菊の花の柄の器を眺める。繊細な器。きっと簡単に手に取ることは難しかっただろう。器の前を何度か行ったり来たりした後。お店の人に話かけるための勇気をえいっと出して、お小遣いの範囲で買えるものはどれですかと聞いて、四角い小物入れを選んでくれたのだろう。

生まれて初めての受験を控えて。ただでさえドキドキする毎日なのに。

「ドキドキする」ベトナム語を調べてみると、なんともかわいい音の言葉が現れました「hồi hộp=ホイ ホップ」というのだそうです。

今年の誕生日。子供のプレゼントと合わせて、「hồi hộp=ホイ ホップ」は忘れられないベトナム語になりそうです。ホイホップな15歳のお買い物に、母は大変cảm động(感動)でした。

今日は子供の初めての入試の日。8時40分からの試験に合わせ、一緒に水道橋まで移動。休日の総武線は空いていて、我が家と同じように試験に向かっているのであろうお父さんと息子さん、お母さんと娘さん、お母さんと息子さんが電車に揺られている。

「がんばって」と手を振って、学校に入っていく子供を見送る親たち。近くを流れる神田川に写る工芸高等学校の校舎が、水彩画のように揺れている。今日はいいお天気。今までやってきたことを、落ち着いて発揮できますように。

三連休。どうぞ皆様、素敵な休日をお過ごしくださいませ。

こいけはなえの気になるもの。

(毎週土曜日更新)
マネージメントを中心に料理家と一緒にand recipeという会社をやってます。とにかく旅が好き。

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