人と音で賑やかな場所。

予定は未定。飛行機は遅れるもの。成田を8時55分に飛び立つはずのベトジェット823便は、機体の到着の遅れもあって、約1時間後の9時50分に離陸。6時間半ほどの空の旅。機内でベトナムのラーメンを食べようかなと思っていたのに、あまりにお腹が空いて、搭乗直前に売店で購入した歌舞伎揚げの封を開けてしまったが最後。周りにボリボリという音が響かないようにゆっくりと食べ続けて、ぷっくりお腹が膨れてしまう。

うとうとしたり、旅の前日にKindleで購入した大江千里さん著の『9番目の音を探して』を読んだり。前の席に座る2歳くらいの男の子の「リンゴジュースの紙パック、ぽい!遊び」に付き合ってニコニコしていたら、思っていたよりも早くタン・ソン・ニャット国際空港に到着。飛行機の外に出るとむっと熱気がやってきて、羽織っていたカーディガンを急いでカバンにしまう。機体の外で働く飛行場の人たちはみなもちろん半袖。熱帯地域に来たことを目と肌で感じて嬉しくなる。

飛行場から空港の建物に向かうバスが、移動する飛行機を待つために道の途中でなかなかの時間停車をしていても、入国審査の列が長く長く伸びていても。のんびりとその時間をも楽しめるのは、初めて降り立ったベトナムという国のおおらかな空気のせいなのか、久しぶりに長い時間飛行機に乗って移動ができた喜びからなのかはよくわからないけれど、ぜんぶオッケイだった。りりしい制服を着た入国審査官の若い男性がにこやかにスタンプを押してくれたことも「ぜんぶオッケイ」に、一役買ってくれていたかもしれない。

スーツケースをピックアップしようと入国審査の出口がある2階から1階に降りると、成田からの飛行機の荷物が何番のレーンに流れてくるのかの表示がない。スーツケースを整理している職員の人に聞いてみると7番か8番に流れてくるよと教えてくれたので、小走りで逆サイドのレーンに向かう。7番、8番の表示はクアラルンプールとシンガポール。どうもここではないっぽい。7番レーンでスーツケースを運んでいる職員の人にもう一度「成田からの荷物は…」と聞いてみると今度は2番のレーンだと自信を持って答えてくれた。おっと、さっきいた場所に戻るのかとまた小走りで2番に向かおうとしたところで6番のレーンに見覚えのある銀色のスーツケースを発見。相棒〜。そこにいたのかい。思ったよりも早く見つかったし、それもこれも、ぜんぶオッケイ。

ベトナムに来る前に友人に教えてもらったGRABというタクシーのアプリ。事前に日本で入れてきたのだけれど、空港からはタクシーがすぐにつかまるからアプリで呼ばなくてもOK。ビナサンかマイリーンというタクシーは安心ですよというブログを読んでいたので、まず緑色のビナサンタクシーを探す。とても親切に荷物を運んでくれる空港の職員ぽい人に「ビナサン」と告げると、ニッと笑ってタクシーまで荷物を運んでくれる。トランクを開けてスーツケースをしまい「メーターOK?」と聞かれたところで、このタクシーがビナサンでないことに気づいた。ごめんなさい、私はビナサンに乗りたいですと英語で2回ほど繰り返すと、さっと諦めてスーツケースを外に出し、ビナサンはあっちだよと教えてくれた。そのまま乗車していたら、通常よりも高い料金で市内まで移動になっていたかもしれないのだけれど、運転手さんの諦めの良さ。これもぜんぶオッケイと言いたくなった。

ホテルに到着して荷物を下ろす。命綱のスマホを急速充電器につないで荷ほどきをしている時にお気に入りのガイドブックを飛行機のポケットに置いて来たことに気づく。予備で持ってきたもう1冊のガイドブックがある。ぜんぶオッケイ。SAKRAを更新するはずの時間が刻々と迫っているのに、街中を味わっていないし写真も撮れていない。慌てて外に出る。

ホテルから徒歩で到着可能なホーチミン市民劇場と向かいのホテル・コンチネンタル・サイゴンを目指す。フランス統治時代の1880年に建設されたホテルはパリのホテル・コンチネンタルにちなんで名付けられた。サイゴン川の河岸を起点に序数で通りの名前が決められていた昔。ホテル・コンチネンタル・サイゴンが面する目抜き通りのドンコイ通りは6番街と呼ばれていたそうだ。夕暮れ時のホーチミン市民劇場の階段には若い女の子たちが団体で腰掛けおしゃべりを楽しんでいる。思えば今日は週末。バイクとクルマの「プッ、プッ」という音が鳴り響き、語らう人の声が前からも後ろからも聞こえてくる。

ホテル・コンチネンタル・サイゴンの中庭に面したカフェでプリンを食べるのがおすすめですよという投稿を見てここに来たのだけれど、ドンコイ通りを眺めることができるちょっと騒がしいテラスのバーに惹かれてしまった。美味しそうにカクテルを飲む人たちを見て、ベトナムのスタートをプリンにしてしまうのは惜しいと思ったのだ。テラスに座って、333を注文。bababa。アプリで勉強した甲斐があったのは食べ物と飲み物ばかり。ありがとうを意味する「Cảm ơn」はまだ自信がなくて、タクシーを降りる時も聞こえるか聞こえないかぐらいの小声の「Cảm ơn」になってしまった。

ベトナムらしいものをつまみにするべきなのに、ビールを一気に流し込んだら、どうしてもフィッシュ&チップスが食べたくなって注文。ベトナムらしいものは明日早起きして食べまくろう。それにしてもビールが旨いです。

18時20分を過ぎる頃、一気に陽が落ちてそのかわりにホーチミン市民劇場にもARTEX SAIGONにもTIMES SQUEAにも灯りがともる。静かで美しい夜の景色とは裏腹に、バイクの「プップッ」という音も車の「ブッ」というクラクションの音も、夜に向かうに連れてどんどん増していく。でもぜんぶオッケイ。

ホーチミン市民劇場の階段に座る若者の数も多くなってきた。ニケツのバイク同志で会話をする男の子。ホテルの前を左折していくバイクの若者たちはみんなどこに向かうのだろう。

333を二杯平らげたら、このままベットに潜り込みたい気分にもなってしまったけれど、今回の旅一番のお目当てのソンベ焼きをたくさん取り扱うお店のKITOは22時まで営業している。またぶらぶら歩いて、店に向かおう。

本日は二段階の更新にお付き合いいただき、ありがとうございました。

2月最後の週末。どうぞ、良い休日をお過ごしくださいませ。

こいけはなえの気になるもの。

(毎週土曜日更新)
マネージメントを中心に料理家と一緒にand recipeという会社をやってます。とにかく旅が好き。

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