誰かが見ていてくれること。

今回は、今できる最善を尽くした。そう自信を持って言える仕事が、自分の中にいくつあるだろう。それなりに一生懸命ではあっても、チームの誰かに頼ったり、このくらいの力を出せばなんとかなってしまうということが、ここ数年多かった気がする。

大切な友達が一緒にやりたいと声をかけてくれて始まった仕事。少し背伸びをして「やります!」と言いたかった。なんとかしてしまうジャンルの仕事ではない。今までとは違う力を使って頑張らないと。2023年の初めに、ありがたいご縁でそんな機会をいただきました。

コツコツ続けてきた韓国語。Netflixや映画館で、なるべく韓国語に触れる時間を減らさないようにして来たつもりだけれど、やっぱり旅ができない時期は辛かった。市場のおかあさんたちとのちょっとした会話。タクシーで話す運転手さんのご家族のこと。現地の友人と頭をフル回転させて話すお互いの近況。行きたい時にぽんと旅に出られていた間には、それがどれだけ自分の身体的に大事なことだったのかがわからなかった。

2022年やっと旅に出られるようになって耳でも目でも韓国語に包まれる幸せ。食堂のお母さんの早口にもどんどん耳が慣れてくる。あぁ、生きてる気がする。少し大げさだなぁとも思うけれど、ソウルで数年ぶりに過ごす時間。その瞬間に瞬間に感じていたこと。会話をするたびに、カラカラになっていた細胞がぷちぷちはじけていく音が聴こえてくる。

年末年始、釜山とソウルに取材に出かけ、3月7日に発売になったCREAの韓国特集。

前職ほぼ日の尊敬する先輩が、わざわざ購入して読んでくださっていた。ソウルの取材でお世話になった陶器キュレーターのナギョンちゃんの展示をCREAの編集部の方々と見に行った帰り道。偶然、道端でTwitterを開いた瞬間にそのツイートが流れてきたものだから、予期しないものがぽろぽろこぼれて参ってしまった。

ほぼ日に入社したばかりの頃、初めて「原稿のようなもの」を書くことになった。社長のメディア出演情報を完結な文章で伝える。何をどんな順番でどのくらいの文字数で伝えるのか。今思い出しても、だいぶ恥ずかしいメモのようなテキストを最初に添削してくれたのが永田さんだった。プリントアウトした紙に、丁寧に入った赤字。驚くほど読みやすく、必要な情報がぱっと目に入る文章になって返ってきた。文章を書く人って、編集をする人って魔法使いだ。斜め前の席からいつもカタカタという音が聴こえてくる永田さんのパソコンは、手のひらを置く部分が心なしか凹んでいるような気がした。チタンを凹ませるくらい文章を書くって。尊敬しているか、していないかわからないコメントになってきたけれど、尊敬しているんです。チタンを凹ますって。すごくないですか。

2005年5月にほぼ日に入社した当時のことを、今でも時折思い出す。

ほぼ日を卒業してからも、ネパールに一緒に旅に出たり、事務所でごはんを食べたり。永田さんのお仕事の数々は、ほぼ日を通して一読者、一ファンとしていつも楽しみに読んでいたのだけれど、今回まさかCREAを購入して、読んでくださるとは思ってもみなかった。イ・ジョンソクが表紙にバーンと載った大判サイズの女性誌。レジに持っていく瞬間、永田さんは恥ずかしくなかっただろうか。あ、amazonという手もありました。

会社を卒業して、だいぶ時間が経っているのに。かつての仲間が、今どんなことをして、何をやっているのか。どこかで見ていてくれる人がいること。なんて幸せなことなのだろう。道のはしっこでしばし動けなくなる。

これが頑張りきれていなかった仕事ならば、こうはならなかったのかもしれない。あぁすればよかった、もっとこう準備をすればよかったと思うことはいくつもあるけれど、今できる全部を出し尽くしたと言える仕事を、どこかで見ていてもらえる。本当にありがたいことだ。

どうやってお返しをしていったらいいのか、ずっとわからないままだけれど、少しずつ何かの形で役に立てることがあったらいいな。そう思い続けることで、また何かの機会がやってくるかもしれない。

花曇りの週末に、Twitterが届けてくれた贈り物のおかげで土日の仕事もまたがんばれそうです。

街のあちこちで植物が香りを放っていて、春が近づいていますね。みなさま、よい週末をお過ごしください。

こいけはなえの気になるもの。

(毎週土曜日更新)
マネージメントを中心に料理家と一緒にand recipeという会社をやってます。とにかく旅が好き。

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