美しい言葉。

最近覚えたばかりの韓国語に「윤슬(ユンスル)」という言葉があります。

初めてその言葉に触れたのは、NETFLIXで4月8日から公開された「キアンの破天荒ゲストハウス」というプログラムの中でした。ウェブトゥーンの漫画家として活躍し、現在は「私は一人で暮らす」などのバラエティでタレントとして大人気のキアン84が企画した、韓国・東海に浮かぶ鬱陵島(ウルルンド)の民宿を舞台に繰り広げられるリアルバラエティ。

海の上に浮かぶ民宿は2階建なのだけれど、1階には入口がなく、クライミングで2階まで辿り着かなければ宿に入ることができなかったり、1階の食堂スペースにはポールで滑り降りなければならなかったり。もちろん2階に上がる時も、ポールを登らねばならない。星空や月を眺めながら眠れるようにとつくられた客室は、建物の外。奇想天外な宿には、一般応募から選ばれた若者や親子が次々とやってくる。

宿泊客を迎える合間、キアン84がサイドカーのついたバイクを運転し、職員として働くチ・イェウンと海沿いの道を走っていました。陽の光が海に映り、キラキラと水面が揺れる様子を見ながら「あれ、なんて言うんだっけ」とキアン84がチ・イェウンに聞く。「ユンスル、ユンスル」とイェウンが答えるのを聞いて、ハッとしました。

日本語には、水面がキラキラ揺れる様子を表した名詞がないことに気づくと同時に、なんて美しい韓国語なんだろうと。

プログラムを見終わった後、すぐにネットの辞書で「윤슬(ユンスル)」を調べてみるとこんな風に書いてありました。

햇빛이나 달빛에 비치어 반짝이는 잔물결.
고향 땅의 봄 바다에 반짝이는 윤슬은 아름답다.

太陽の陽射しや月明かりに照らされ、キラキラ輝く波紋。
故郷の地の春の海にキラキラときらめく波紋は美しい。

漢字由来の言葉が70%ほどあるといわれる韓国語。そのおかげで、私たち日本人は韓国語を学びやすいのだけれど、最も韓国語の美しさや面白さが感じられるのは、韓国の人々が「순우리말(スンウリマル)」と呼ぶ固有語。윤슬(ユンスル)のような言葉に出会う時、いつもそう思うのです。

先日訪れた江陵は、山と海に囲まれている土地柄、天気が気まぐれに変わりやすい。そのおかげもあって、訪れた日は朝から昼にかけて日差しが出たり隠れたり。曇りから晴れに変わるタイミングで川沿いを歩いていると、美しい윤슬(ユンスル)に出会うことができました。

風が水面を撫でるたび、川上から川下へ。右から左へ。風の流れる方向に動く윤슬(ユンスル)。その様子に美しい名前がついていることを知った後だからか、윤슬(ユンスル)を見つけると、より嬉しくなってその状況をぼーっと長いこと眺めていました。

何年も韓国語を勉強していても、まだまだ知らない言葉がどっさりある。この言葉はこういう意味か、あの言葉はこういうニュアンスかと、調べて覚えてさっと通りすぎる言葉もたくさんある中で、윤슬(ユンスル)のような言葉に出会えると、韓国語を学び始めた頃の感動がふつふつと蘇ります。こういうことがあるから、一生面白く勉強をし続けていくのだろうなとも思う。

ガハガハと笑いながら楽しんだバラエティの中で、贈り物のように降ってきた美しい言葉。キアン84とチ・イェウンが見た윤슬(ユンスル)を見に、いつか鬱陵島に訪れたいという夢もできました。

日本人の私が美しいと感じた윤슬(ユンスル)のように日本語を学習する海外の人々が、思わず立ち止まる美しい日本語もたくさん存在するのだろうな。日本語の学習中、どんな言葉に出会った時にハッとしたか、いつか海外の人々にインタビューをしてみたい。美しい言葉は、静かに長く、人を動かす原動力になるような芯の強いパワーを与えてくれるようです。

こいけはなえの気になるもの。

(毎週土曜日更新)
マネージメントを中心に料理家と一緒にand recipeという会社をやってます。とにかく旅が好き。

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