甘と甜。

表参道で打ち合わせ終了。少し時間を空けて次の打ち合わせは北参道。事務所に戻れなくもないけれど、行ったり来たりの時間がなんだかもったいない気持ちになって、表参道から北参道までぶらぶら歩く。

時間はちょうどお昼時。原宿の裏通りでばったり目が合った久しぶりの春水堂。夏頃には旅を再開したいと思いながら、飛行機の値段を調べていたこともあって、自然と足が向いてしまいました。

今回は切干大根入りの卵焼きを食べられなかった。台中まで足を伸ばして相思麻醬麵を食べればよかった。いつもちょっと心残りな気持ちを抱えながら、少し早めに到着する松山空港には春水堂があって、名残惜しい気持ちを和らげてくれる甘いミルクティを頼んでいました。(空港の春水堂、現在は閉店)

入店したのがお昼少し前だったこともあって、お店は程よいお客さんの数。店員さんが、新しい紅茶を試飲で配っている最中。「香醇紅茶の試飲をどうぞ。」紅茶の冷たさがコップの紙越しにも伝わってくる。ぶらぶらと歩いた距離は短くなかったので、この冷たさは嬉しい。「紅茶」という単語に無意識ノンシュガーと反応していた頭が、口に入れた瞬間その甘さに驚いた。そうだった。台湾でティーと言えば甘いのが常だった。ちょっと疲れた体に甘くて冷たい飲み物はとても嬉しかったのだけれど。

メニューを広げて、さらに甘いミルクティと豆漿鶏湯麺を注文しながら、初めて台湾に行った時のことを思い出す。芸人さんのマネージャー時代。日帰りの弾丸グルメツアーのロケ。ペットボトルの水とお茶はマネージャーの常備品。当時の台北でコンビニといえばの全家便利商店=ファミリーマートに飛び込んで買ったお茶。予想だにしない甘いお茶をコントのように吹き出しそうになりながら、もう一度コンビニに走った記憶。なんで台湾のペットボトルのお茶は甘かったんだろう。勝手に過去形にしているけれど、今も当然甘いものと甘くない両方のお茶が、コンビニの冷蔵庫には並んでいるはずだ。

甘いといえば。中国語で甘いは甜(tián)。デザートのことは簡体字だと甜点。繁体字だと甜點。発音は同じtiándiǎn。と思い込んでいたのですが。うまい、喜ばしいの意味の「甘(gān)」も甘いの意味があった。

改めて辞書を引いてみると「甜(tián)」の意味は3つ。

1、(味が)甘い、うまい。

这西瓜好甜呢!=このスイカすごく甘いよ!

反対語は「苦(kǔ)」。

甘いの反対で反射的に出てきてしまうのは「辛い」だけれど、そうか「苦い」もあるんですよね。

2、(口先が)うまい。(言葉が)巧みである。

嘴甜(zuǐtián)=口がうまい。

3、(生活、睡眠が)心地よい。

他睡得真甜。=彼は気持ちよさそうに寝ている。

あえて日本語にして「甘い眠り」を眺めてみる。うん。眠っている顔は間違いなく微笑んでいるに違いない。

かわって「甘(gān)」の意味を引いてみる。こちらも意味は3つ。

1、甘い、うまい。

甜と同じ意味が1番にきているけれど、例文を見てみると「うまい」のニュアンスの方が強いのかな。

味甘色美。=味がうまく、色合いも美しい。

この四文字を見ていると、雲南料理「人和園」の鶏油碗豆が頭に浮かぶ。店の奥でスナップえんどうの豆を鞘から取り出す作業を眺めているのも楽しかった。

2、良い、喜ばしい。

苦尽甘来。=苦しみがすぎると楽しみが来る。苦は楽の一種。

3、甘んじる、心から願う、満足する。

なるほどなぁ。3番目の意味になると「甜」と「甘」では全然かわってくる。

豆乳のスープの甘さは、「甜」なのか「甘」なのか。あまみというよりも旨味と考えると「甘」がしっくりくる?

そんなことを思いながら、調べていくと「甜」と「甘」の「あまさ」については、台湾や中国のお茶を例にとって語られているものが多かった。

「甜」はお砂糖や蜜のような味、食べ物が本来もっている甘さを指している。甜茶は甘い薬草茶のこと。甜菜は砂糖の原料。あ、いつも使っている「てんさい糖」のてんさいは「ティエンツァイ」だったのか。

「甘」の漢字の成り立ちを見てみると、口(くち)+一(くちの中にある食べ物)=甘。舌が感じることのできる甘みを指しているのだそうだ。時差的に感じる甘さという説明もあった。

でも、漢字の成り立ちからすると「舌」という字の入っている「甜」のほうが、舌が感じる甘さという説明がしっくり来る気もする。うううう〜ん。台湾や中国に旅に出られるようになったら、お茶屋さんに直接訊いてみたい「あまさ」の違い。

2015年の5月に台北で飲んだスイカジュース。喉を通るシャキシャキもおいしい自然な甘さだったけれど、これは「甜」なのかな。

2016年の1月31日、旧正月。がさっと手掴みがたのしい市場のお菓子屋さんのキャンディは間違いなく「甜」。お菓子は全般的に「甜」な気がする。

ほんのり後から「あまい」を感じるお茶については、なんとも美しい「回甘(huí gān)」という言葉もありました。

水や茶葉それ自体は甘いわけではなく。高い山で採れた良いお茶は「茶葉の味→一瞬感じるほのかな酸味→回甘」という順番で味がやってくるようで、茶葉にお湯を注いでしばらくおいて味わうと、甘さを感じるようになる。最後に戻ってくるような自然な甘さのことを「回甘」というのだそうです。回=戻る、帰るの意味そのまま。西荻のサウスアベニューさんで買ったジャスミンティ。「回甘」を頭に浮かべながら飲んでみよう。

ネットや辞書では調べきれない体感。体験。まだまだほんの少しだけれど、言葉が導き出してくれる感覚も加わったあとの旅は、きっともっと面白くなるんだろうな。

おいしいミルクティで糖分ばかり補給してないで、あまり遠くない未来に向けて、コツコツ勉強しなければ。

あまいミルクティから、喝の入った春水堂。豆漿の麺もとってもおいしかったです。

気候がよいはずの5月なのに、雨が続いておりますが。皆様、どうぞよい週末をお過ごしください。

こいけはなえの気になるもの。

(毎週土曜日更新)
マネージメントを中心に料理家と一緒にand recipeという会社をやってます。とにかく旅が好き。

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