もう一度訪れたい場所。

先週に引き続き、今週の気になるものもハノイのこと。

海外から日本に旅に来た人たちが、東京と大阪で違った雰囲気を感じるようなことなのか。
ベトナムの第一の都市であり経済の中心であるホーチミンと、第二の都市で首都であるハノイは、目に入る景色、匂い、空気が違って感じられる場所でした。

人が穏やかなことはどちらも変わりがないのだけれど、ハノイのほうがのんびりと時間が流れている気がする。ホーチミンと同じようにバイクは多いし、旧市街を歩いていると人が溢れているのだけれど、ホーチミンを歩いている時のような独特の緊張感はないし、バイクをよけて道を渡る時の難易度もホーチミンが10だとしたら5くらいに感じる。ホーチミンの人口密度は4363人/km2、ハノイは2398人/km2と面積的に一人当たりの面積がゆったりしているからなのか、経済の回っている速度によるものなのか。ハノイの街も充分に元気だけれど、ゆったりと感じる。

ホテルの近くにあるホアンキエム湖はお散歩が楽しい。湖の周囲は歩道優先なのでバイクがほとんど通らないから、空気もがきれいに。深呼吸をしながら、長い時間だらだらと歩きたくなる。漢字で還剣湖と表記するホアンキエム湖は、ベトナム北部を流れる紅河が何度も氾濫を繰り返してできた湖。かつては紅河にもつながっていて、今よりも大きなサイズの湖だった時には、緑水湖と呼ばれていた。何度目かの氾濫で湖がふたつに分かれ、ひとつがホアンキエム湖になり、もうひとつは水運湖になった。湖という名前がついているのだけれど、どちらかというと池のイメージに近い。

「ここを歩いていると、なんだか上野の公園にいる気分になりますね。」

一緒に旅をしていたデザイナーちばっちの言葉がしっくり来る。湖の周りでは韓国のポンチャックのような演歌が流れていて、音に合わせて踊りを踊るおばさまの団体、中折れ帽に蝶ネクタイでスチールギターを弾く人、アイスクリームを食べながら歩く家族。異国っぽさももちろんあるのだけれど、不忍池をぐるぐる回っている気分にもなる。

日曜の朝。湖の周りでは赤いベトナムの国旗がデザインされたTシャツを着た、たくさんのランナーが走っていました。湖の周りを何周かするマラソン大会が開かれていたようで、大人サイズのがばがばのTシャツを着て、一生懸命お父さんについていく丸坊主の少年がかわいくてかわいくて、ずっと目で追ってしまう。

明け方に降った雨でしゃきっと元気を取り戻したスプレーの菊を山盛り積んで、自転車で走るお花屋さんにもちょこちょこ出会う。古い洋館の前に止まっていた花屋さんで白い菊の花束を買って彼女にプレゼントする男性を見かけると、なんだかにこにこしてしまう。ノイバイ国際空港に到着した時も、花束を手に持って誰かの帰りを待つ人に出会った。その昔、ウラジオストクに旅に出た時にも、空港でたくさんの薔薇の花を抱えて、彼女を待つ男の子の姿が美しかった。あの時はiPhoneで写真を撮るのみで、カメラを持っていなかったことが悔やまれる。見たものを撮る。あの男の子が持っていた白い薔薇の花束。写真がない代わりにハノイに来る度、あの薔薇の花束を思い出すことができるかもしれない。

花を山盛り積んで移動する自転車の他にも、つい目が追ってしまうのは果物山盛りの自転車の商店。「かがみ餅に乗せるみかんみたい」とちばっちが表現した小ぶりのみかんは、酸味がしっかりあってとてもおいしい。みかんのおへそのところに親指を入れて、分厚い皮を下にぐっとさげると白い筋がほぼ全部、つるんときれいについてきてくれる。

気になったけれど出会った時はお腹がいっぱいで食べられなかった、ベトナムではチョンプーとよばれるローズアップル。ベルのような形をしていて、食感はサクサクした梨のような味なんだそう。ユーカリなどが含まれるフトモモ科の植物。形はどちらかというとパーティー用のつけ鼻みたいな形なんだけれどフトモモ。ハノイに旅に来て知ったフトモモ科の植物。次回はぜひ味わいたい。

ハノイはフルーツ天国でもあり、デザート天国でもありました。ホーチミンではバインフランと呼ばれていたキャラメルのプリン。ハノイではケム・カラメンと呼ばれている。旧市街にプリン通りと呼ばれる通りがあるらしい。冷蔵庫にプリンを欠かさない人間としては、食さぬわけにはいかないということで行ってきました。赤い看板がかわいいDuong Hoa(ドンホア)と若草色の店舗にプリンの写真がお似合いのMinci(ミンシー)。地図を検索する度に、お店に訪れた人たちのプリン評が目に入って、カスタード感が強いというミンシーに惹かれてしまう。次回はぜひDuong Hoaにもと思うけれど、結果ミンシーという選択は大正解でした。とろっとしたプリンがおいしいとされる時期もあったけれど、しっかりのキャラメルに固めのプリンが好きな人間には、全てが120点のプリンでした。店の中にある大きな冷蔵庫には、10個、20個とプリンが長い袋に縦に詰められきゅっと結ばれていて、お子さんを後ろに乗せたバイクのお父さんたちが店の前でプップーとベルを鳴らすと、縦に積まれたプリンがじゃんじゃん運ばれていく。まるでドライブスルーのように、プリンが飛ぶように売れていく。ミンシーが近くにあったなら、冷蔵庫常備のプリンの数が増えてしまうかもしれない。毎日食べたいプリン。ひとつ8000ドン。48円なり!

カレー粉がまぶされた雷魚に、あさつきとディルをどっさり入れて鍋で炒め、お米でできたやわらかな麺のブンと一緒に食べるチャーカーという料理や、田ガニとトマトの出汁がきいたブンなど。初めて口にする味だからか、脳内がおいしいと感じるまでに三口目くらいまで時間がかかってしまう食べたことのない種類の味にもたくさん出会うことのできるハノイ。今回訪れたことでおいしいと感じる回路の種類が増えたから、次は違った楽しみ方ができそうな旅先になった。

銀杏と栗のちょうど真ん中のようなほくほくとした食感と味の蓮の実がたっぷり入ったロータスの蒸しご飯も次回また必ず頼みたいし、東南アジアのバニラエッセンス・パンダンリーフで色付けされた緑のココナッツゼリーが入ったチェーもお腹いっぱい食べたい。今回時間がなくて飲むことのできなかった蓮のお茶も飲まなければ。

ホーチミンを旅した時は、またベトナムの別の場所にも行ってみたいと思ったのだけれど、ハノイは、またハノイを旅したいと思う場所でした。ミンシーのプリンのおかげなのか、親切にしてくれたお店の人たちの穏やかさのせいなのか。花にあふれていた街の気持ち良さのせいなのか。小さな要素が重なって、ハノイはもう一度訪れたい、縁を感じる場所になりました。

次にしっかり新しい言語を始めるとしたらベトナム語。ハノイのおかげで、言語オタクのあらたなお楽しみも生まれてしまった。

夏の終わりのような気温だったハノイ。東京も12月とは思えない暖かさですね。

2023年最後の月も、もう真ん中。もうすぐ今年が終わってしまう!

年末まで大忙しの日々が続くと思いますが、みなさま週末はどうぞゆっくり過ごしていただけますように。

今週も1週間、おつかれさまでした。

こいけはなえの気になるもの。

(毎週土曜日更新)
マネージメントを中心に料理家と一緒にand recipeという会社をやってます。とにかく旅が好き。

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