ワン・ツー!

이건 좀 아니지 않나 .

「イゴン チョム アニジ アンナ」と読みます。

撮影でばたばたの日。朝から子どものお弁当を作り、送り出してから急いで家を出る。午後の撮影用のプリンをオーブンで30分焼く。粗熱を取り、冷蔵庫に入れてから午前のロケに向う。取材チームの車がお迎えに来る10時までのシュミレーションはばっちり。ロケから事務所に戻ったあとの撮影の順序も頭で確認を終えて、YouTubeをオン。韓国のトークバラエティ「ユー クイズ オン ザ ブロック」の再生ボタンを押す。iPhoneをカバンに入れて音声だけを聞きながら、俳優パク・ジファンのトークに笑ったりうなったり。頭の中が韓国語に集中していた後だっただけに、事務所の扉を開けた瞬間、ため息と共に出た一言も思わず韓国語になったようです。

이건 좀 아니지 않나.イゴン チョム アニジ アンナ。アンナのあとはちょっと溜めて「…」3点リーダーをふたつつけたいニュアンス。これはちょっと違うんじゃないか。こりゃあんまりだ……。3点リーダーふたつ。韓国語を勉強し始めてから、耳から聞いてはいても、自分の口からは発したことのない言葉。目の前に広がる状況に、思わず口からこぼれ出る。きれいだったはずのキッチンを片付け、ゴミを捨て、床の雑巾がけをし、撮影できる状態に戻す。まずい、このままではプリンの焼き時間が足りない。どたばた準備をして、ロケ隊の車に滑り込む。

その日は無事に楽しく撮影を終え、夕飯を出す。今日は朝からよくがんばったと自分を褒めてあげたい。自分時間が訪れると朝の「イゴン チョム アニジ アンナ」の気持ちがふつふつ再来してくる。まずいまずい。こういうネガティブマインドは、早く体の中から出ていってもらわないといけない。何が一番有効か。コンサート!声をあげ、一緒に歌う。最高。ネガティブマインドのネからドまで遠く彼方へ飛んで行く。とはいえ、明日推しのコンサートがあるわけではない。ハーゲンダッツのパイントどか食い。冷たい、甘い、至福。食べてる間は幸せだけれど、その後にやってくる罪悪感。自分に対して「イゴン チョム アニジ アンナ」な気持ちになりそう。不採用。運動。走る!身軽な服に着替えて、당장(タンジャン)、いますぐ!1時間ぐらい走ったあとには、気分爽快で戻ってこれるんじゃないか。しかし、どうも足が重い。走り出す元気はまだチャージされていない。う〜ん。困ったとパチパチ検索を繰り返すうちに、前からちょっとやってみたかったを思い出す。

「キックボクシング 近所」検索結果が、出てくる出てくる。新宿や渋谷方面を含めてピンが20個弱。しばらく体を動かしていないし、フィットネスな感じでスタートできるところがあるといいな。あとは家から近いのは必須。じゃないときっと通わなくなる。まずは一番家から近いところ。明日は打ち合わせの前に時間があるから、朝から9時から体験レッスン。申し込んでしまいました。

すぐ近くにあっても、興味がない時には全く目に入らないもの。携帯とお財布だけを持って家を出る。9時に扉を開けるとすでに一人の方がストレッチをしていた。

「今日は体験レッスンということで最初はマシンを使ったストレッチからやっていきますね。」

心の準備は万端。まずはストレッチ。肩甲骨を開くマシン、股関節をやわらかくするマシンなど。普段伸ばしていない筋がどんどん伸びていく。時折「イテテテ」と呟きながら、体をほぐす。次はポールの上でのストレッチ。

「ポールの上に仰向けに寝転がってください」

仰向けってどっちでしたっけ。あ、頭が上の方が仰向けですよね。背骨の下にポール。ゆらゆらゆらゆら。安定しない。おへその下のあたりに力を入れて、ゆらゆらを止める努力を試みる。しばらくするとまたゆらゆら。私の体幹はどこへ?集中力が途切れる。

「大丈夫です。だんだん慣れてきますからね。今日は体験レッスンなので、駆け足ですみません。次はボクシングの構えをやってみましょう。足は肩幅に開いて左足は前に。右手、脇はぎゅっとしめます。そうですそうです。左手で顔をガードします。重心を少し落として」

不格好ではあるけれど、なんとなくそれっぽい形を見よう見真似で作る。

「はい、じゃぁ、このままストレートをやってみましょう。右手をまっすぐ前に出します。そうそう。まっすぐ前に出して、ミットにあたる瞬間に拳を返す。腕は曲げない。まっすぐ。そう。はいもう一回」

脇がしまっていないと、腕はまっすぐ伸びずに上半身だけが前に傾く。腕をまっすぐ伸ばすのって、こんなに難しかったんだ。

「はい、オッケイ。では次ジャブ、いきますね。左手をまっすぐ伸ばします。右手は頬につけてガード。はいまっすぐ伸ばす。体が前に来ちゃってる。骨盤をしっかり意識して。はいもう一回。」

ストレートの時よりも上半身が前に出てしまって、下半身がゆらゆら。左手を前に送りだしながら、少し前に記事を書いた映画『犯罪都市』のマ・ドンソクのパンチを思い出す。登場のシーンで、道すがらさくっとチンピラを制圧するマ・ソクド(マ・ドンソク演じる主人公)。相手のパンチを交わす時の、下半身は動かずに上半身だけくっと後ろに下げる動き。簡単じゃないんだなぁ。トレーニングの賜物なんだ。あぁ、また集中力が途切れてる。

「じゃぁ、ミットをつけて練習してみましょう。」軍手をしてその上にミットをつける。右手の脇をしめ、左は顔をガード。足は肩幅。右足はかかとを浮かす。

「はい、じゃぁストレート、ジャブの順番でワン・ツーと打ってみましょう」

ワン・ツー、ワン・ツー。腕がまっすぐ伸びた時だけ、パンチがずしっと入った感覚が腕を通じてびびびと上がってくる。これかぁ、この感覚。ワン・ツー、ワン・ツー。

「はい、今度はキックをやってみましょうね。左足を一歩前に出すのと同時に右手は志村けんさんのアイ〜ンのポーズ。そうそう。右手を思い切り振り下げるのと同時に左足のかかとを回して右足をまっすぐ伸ばして、はい!蹴る!」ズバーン。ハァ〜爽快。

型もまだ全然決まらないし、腕はまっすぐ伸びていない。体幹ももちろん安定していないけれど、これは楽しい。即入会。通い放題なので、朝一仕事の前になるべく来よう。体験レッスンの次の日も朝一で1時間。あっという間に時間が過ぎて、今日は筋肉痛。バキバキの体をストレッチしながら、イゴン チョム アニジ アンナの気持ちはさっぱり消えていることを確認する。何かきっかけがないと始めなかったであろうキックボクシング。ひょんなスタートでしたが、毎日の生活に運動を組み込めることになりそうで気持ちが晴れやかです。

次回のレッスンは月曜日。土日は少し走ろうかな。

今週も1週間おつかれさまでした。桜は散ってしまいましたが、ツツジが満開ですね。楽しい週末をお過ごしください。ワン・ツー!

こいけはなえの気になるもの。

(毎週土曜日更新)
マネージメントを中心に料理家と一緒にand recipeという会社をやってます。とにかく旅が好き。

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