同じ釜の飯を食うならぬ、同じペダル(配達)の飯を食う。
2月26日からソウル美術館で開催される展示の準備のため、ソウルに行ってきました。
マネージャーをしている写真家川島小鳥さんの韓国で初の個展。
写真家デビューの作品である「BABY BABY」から「未来ちゃん」「明星」、2023年の秋から2024年の春が来る直前までソウルで撮影された最新作の「サランラン」まで、小鳥さんの歴史をまるごと見て感じていただける展示です。

昨年の4月から美術館の方々とやりとりを始めて、10ヶ月と少し。現地でのミーティング、日本でのミーティング、12月、1月はオンラインのミーティングをなん度も重ねながら、ついにオープン直前まで来てしまいました。
何事も「빨리빨리(パリパリ)」=早く早くな韓国の文化は展示準備中のやりとりでも健在。メールの返信もできるだけ「빨리빨리(パリパリ)」。ピンポンのような運動量と反応の速さに、ソウル美術館の皆さんへのメールは、早く打ち返しをしなければと、焦るとはニュアンスの違う「早く早く」が習慣づいていきました。

地下一階、一階、二階と建物まるごと川島小鳥作品で埋め尽くされる予定の会場に、海を超えて作品が無事到着。
四角い箱だった場所に木材の温かみのある展示セットが組まれ、事前に小鳥さんが配置を考えていた作品たちを、どの高さで展示をするか。日本で作品の管理をしてくださっているギャラリーmomoの竜平さんと一緒にレーザーを当てながら位置決めをしていきます。

150点ほどの作品たちの位置を2日の間に決めていかねばならない。続けて作業をし続けたいところだけれど、食べることはやっぱり大事。
「配達を頼んで、みんなで食べる形にしようと思いますが、何か食べたいものはありますか?ジャジャン麺とチャンポンはいかがでしょう。」今回、会場のデザインやグッズのデザイン、アートワークに関する全般を取り仕切ってくださったヒョンジュさんが携帯を持って注文の希望を取る。
準備1日目のお昼ご飯は、ドラマや映画の中で見るような100点満点のジャジャン麺とチャンポン、そしてタンスユク(酢豚)に決定。タンスユクは、ソースをつけて食べるか、事前にソースをかけて食べるか論争が存在する韓国。ヒョンジュさん以外の皆さんは全員「ソースをつけて食べる派」。ヒョンジュさんは酢豚の衣がふにゃっとなるまでソースを染み込ませておいて食べたい「ソースをかける派」。「天ぷらうどんも衣がしなしなになっている方が好き」という宣言に、「えー!信じられない。サクサクの方が美味しいでしょう」とヒョンジュさんと同い年のキュレーター・ジェウォンさんの声が響く。そんな様子を微笑ましく見ながら、お昼ご飯。日本人の私たちよりも、ジャジャン麺のソースと麺を入念によく混ぜてから食べ始めたはずなのに、みんな食べ終わるスピードが早い。빨리빨리(パリパリ)食べて、準備をしないとね。急いで甘い玉ねぎのソースを口に詰め込む。

2日目の昼食も배달(ペダル)ごはん。ペダルは配達のこと。「ビビンバとビビン麺にしようと思うのですが、よろしいですか?麺とご飯の希望を取りますー!」小鳥さん、竜平さん、小池の日本人は3人ともビビンバをチョイス。せっかくだから麺も食べてみてくださいと3人でシェアできるよう、麺も頼んでくださった。
昨日のジャジャン麺と同じようにビビンバも真っ赤になるまでコチュジャンを混ぜていたはずのスタッフの皆さん。やっぱり、食べ終わるスピードが早かった。

オンラインのミーティングで、何度もやりとりをしていても、現場で一緒に作業をし、作品を大切に思ってくださっている気持ちを直接ひしひしと感じ、食卓を囲むことを通してチームの結束が一気に固まった。


「みんな自分ごとにしてくださっていて、ありがたい。チーム感がすごい!」と小鳥さんが合間で合間でお話しをされるほど、ぐっと距離が縮まった3日間。
한솥밥을 먹다(ハンソッパブル モッタ)という言葉が頭に浮かぶ。한솥(ハンソッ)が意味するのはひとつの釜。밥을 먹다(パブル モッタ)はごはんを食べるという意味。同じ釜の飯を食う、同じチームの一員になるという言葉が、韓国にも存在するのですが、今回はまさに한솥밥을 먹다(ハンソッパブル モッタ)な時間でした。
飛行機の時間ぎりぎりまで作業をして、なんとか位置極めが終了し、慌ただしく美術館を出る。タクシーにスーツケースを積み込み、スタッフの皆さんとはしばしお別れ。おそらく一番たくさんの作業をしてくださり、現場でも走り回っていたデザイナーのヒョンジュさんが涙ぐむ姿を見て、こちらもぐっと来てしまう。
作品が展示された会場がどのように変化するのかワクワクしながら、数日後にまたソウルに戻ってきます。
海を超えた良いチームとのお仕事。様々な瞬間でありがたさを感じる2泊3日でした。
