世界から自分を隠してくれる時間のある場所。
訪れるたび、また戻ってきたくなる場所が自分の中に増えていく。そんな場所に出会えることが、旅の大きな醍醐味でもあります。
とある取材で、済州島に行ってきました。

済州を訪れるのは、この旅で4回目。初めて訪問したのは20数年前のこと。まだハングルを一文字も読むことができず、済州島の中には、済州市と西帰浦市という二つの市があるということも知らず。ロケの間ずっと私たちの横にあった、島の真ん中に聳える漢拏山の高さが1947メートルだということ、韓国で一番高い山だということもわかっていない、そんな状態でした。
その後、急に済州が気になる存在に躍り出たのは、ある番組の影響がとっても大きかったのです。
韓国のスーパースター、歌手のイ・ヒョリが済州にある自宅で一般のお客さんたちをもてなす「ヒョリの民泊」というプログラム。夫であり、ミュージシャンのイ・サンスン、アルバイトのIUと共に、公募で集まった様々な職業のお客さんと交流する姿がとてもあたたかく、癒されてはまっていったということもあるのですが、済州の美しい山や海が、生活のすぐ近くにあることを最初に意識したのは、この番組のおかげだったかもしれません。
島の空気がゆっくり流れていて、世界からすっと隠れることのできる時間が存在するような場所。済州がそんな風に目に映ったのです。

歌手や女優としての日常では、毎日息をつく暇もないほど忙しく過ごしているであろうIUが、民泊のお客さんがみんな家を出払った後、日差しが落ちてくるベンチでゆっくりと目を閉じるシーン。どこにいっても注目されてしまう存在が、ひととき解放されて、電気を消すように自分をオフにできているように見えたのです。もちろん、その姿を撮影しているカメラは存在しているのですが。
そして韓国の友人の何人かが同時期に、済州が好き、済州に住みたいと言っていたことも、気になる存在の理由になったひとつなのかもしれません。そこに何があるのかを知りたくなる。
信頼する人たちのレコメンドは、自分を動かす確実なきっかけになってくれます。

2回目の訪問は、木浦からフェリーの旅がしたくて済州に2時間半だけの滞在。そして、昨年春に訪れたのが3回目。その時はとにかく歩く旅で、済州の自然をめいいっぱい身体に吸い込むことのできる時間でした。今回は島の西側を縦断して大きく移動をする旅。4回目にして、やっと島の地図を頭に描くことができるようになりました。
初めて済州を訪れた時には、大きく気に留めていなかった漢拏山が、4回目の旅にしてとても大きな存在に変わったことには、自分でも驚きました。山がよく見えるホテルを予約していたことも影響しているかもしれないのですが、山頂にうっすら雪の積もる漢拏山はいつの時間も美しく、済州に住む人々が昔からこの山を心の支えにしていた理由が、自分の感情の中にも混ざっていく。そんな時間にもなりました。

これから旅の記事を書きながら、済州がもっと好きになる予感がしています。5回目の済州への旅は、漢拏山に登ることになるのかもしれません。
一気に早いスピードではなく。少しずつ、ゆっくり仲良くなって、長く訪れたい場所。そう感じることのできる場所になったということは、いい旅だったということでもある。
また済州に戻る日を楽しみに。
今週もおつかれさまでした。寒い日は続きますが、日差しが少しずつ春に向かっていますね。
