街を歩いて、アートに出会う。
気がつけばiPhoneを手にYouTubeを見て、音楽を聴き、ドラマや映画を見る。コンテンツを見ている間も、メールの通知がくれば届いたメールを見て返信をして、必要ならば電話で連絡をする。1日のうちで、携帯から自由になれる時間はいったいどのくらいあるのだろう。ふとそんなことを考えました。
スマホやPCと意図的に一定の時間、距離を置きデジタルデトックスをすることが、集中力の改善や心とからだのリフレッシュ、自分の時間を取り戻す効果があることは頭ではよく分かっているのだけれど、実行に移すのはなかなか難しい。

今年の春から、作家さんのサポートが始まった「六本木アートナイト 2025」が昨日スタートしました。日曜日までの3日間開催される、六本木の街を舞台にしたアートのお祭り。東日本大震災やコロナの時期はお休みをしていましたが、2009年から今年で14回目の開催となるそうです。六本木ヒルズ、東京ミッドタウン、国立新美術館を中心に、六本木の街の中にもアート作品が点在しています。
昨年の台湾に続き、様々な国や地域のアートにフォーカスしたプログラムとして、今年選ばれたのが韓国。わたしはイム・ジビンさんという作家さんのサポートをさせていただいています。
火曜日の深夜、作品の設置作業をしていました。もちろん電話やメールのあまりこない時間帯だからということもあるけれど、作品の設置をしながら、ほとんど携帯を見ないですむ時間が続いていました。担当しているジビンさんの作品は素材がバルーンなのですが、空気が入ってどんどん膨らんでいく様子、作品のバランスを見ながら向きや形を調整していかれる様子を見つつ、現場のゴミを拾ったり、職人さんたちとお話をしたり。その場のことだけに集中をして作品が設置されていくのを眺められる時間は、とても贅沢な時間でした。
夜は作品の中に設置されたあかりが灯っているのですが、暗い空がだんだんと明けていく朝に向かう時間になると、野外に設置された作品の別の表情が見えてきて、とても愛おしく美しく感じられました。

昨日開かれたキックオフのイベントが終わり、会場のひとつとなっている六本木ヒルズから乃木坂の駅に向かって歩いていると、イベントのパンフレットを手に作品と一緒に写真を撮り、解説をじっくりと読むカップルやファミリーのお客様と複数すれ違いました。結局、写真を撮るために携帯は手にしているのだけれど、スマホから顔を上げて、好きな人たちとあるいは一人の時間を楽しみながら、街を歩いてアートに触れるのは心も身体も健康的で、とても幸せな時間だなぁと感じました。
わたしもお客様たちと同じように、今回偶然出会った作品からその背景にある物語や、作家さんの故郷のことを知りたくなったり、新しいことに出会う小さな窓がいくつも開く機会になりそうな予感がしています。今日、明日と仕事で稼働をしなくてよい時間は、携帯をポケットにしまって、街の音を聴きながら、いろんな作品に出会うことができたらと思っています。

担当のジビンさんの他に、個人的にとても気になっているのはキム・アヨンさんの《デリバリー・ダンサーズ・アーク:0度のレシーバー》という2024年作成の映像作品。ソウルの街と様々な次元を舞台にした、若い女性配達員達の旅を描いたもの。作品の起点となったのは、コロナの時期にアヨンさんが多数利用していた宅配サービス。頼んだ食事を顔を合わせず受け取る背景で、活躍をしていた配達員の人たちの動き。そんなふうに仕事をしているのか気になって、ネットで出会った女性配達員の方にインタビューを行い、バイクの後ろに乗せてもらって、一緒に宅配を経験したこともあるのだとか。共に過ごす中で印象的だったのは、彼女がアプリに依存していたこと。現実に存在sしている目の前の道路の状況を意識しながらも、絶えず新しい通知を受け取って、アプリの地図を使い、街を移動するなかで、配達員の女性の現実の認識は分岐し、増殖していく様子を目の当たりにして、それが作品のインスピレーションになった。そんな風に作られた2022年発表の《デリバリー・ダンサーズ・スフィア》の続編を今回見ることができます。六本木ヒルズアリーナで複数回上映があるので、よろしければ皆様もぜひ!
暑さも和らぎ、お散歩が気持ちのいい季節。お近くにお越しの際には、用事を済ませて次の場所に移動する前に、少し、のんびりと六本木の街を歩いて、心の動くアートに出会っていただけたら嬉しく思います。
それでは今週も1週間おつかれさまでした。みなさま、よい週末をお過ごしください。
