ゆっくり変わっていく。

人生はいきなり変わるのではなく、ゆっくりと静かに変化していくんだな。最近そう思う瞬間が多くなりました。

ここ数年の趣味のひとつは、世界中のさまざまな言語を学ぶこと。いや、いつも新しい言語を学びたいと思っていること、という方が正しいかもしれません。

先生のスパルタぶりに応えられず、挫折をしたフランス語。つまみ食いをして、ぴたっと勉強の止まってしまっているベトナム語。HSKに挑戦し、そこで満足してストップ。もうすっかり口から出てこなくなってしまった中国語。そして人生で、何度やり直しをしているかわからない英語。そんな数々の言葉の中でも韓国語は、勉強を始めてから一度も飽きることなく、コツコツ、たのしく学習を続けられてる唯一の言語です。

勉強を始めてから数年、日常的な会話が可能になって、韓国語でさまざまなことをリサーチができるようになった。勉強をスタートした頃にはなかった、語学の学習の環境も近年すっかり便利に整いました。日本にいても、NETFLIXやYouTubeで、韓国語に触れたいときにいつでも触れられる。飽きずに勉強を続けていられるのは、偉大なエンタメの力も大きいです。

韓国に留学をしている友人がご縁をつなげてくれて、韓国の木工作家さんの通訳をする機会をいただきました。通訳を専門とする方々の日々のたゆまぬ努力には、足元も及ばないのだけれど、作家さんのインタビューをプリントアウトし、専門的な単語を抜き出し、単語帳を作り、インタビューを音読。作家さんの行う技法について、作品に用いている木の種類について、日本語でも調べて勉強。

通訳のお仕事をいただいてからの1週間、受験生のように調べては声に出し、暗記。もうだいぶ忘れっぽくなった脳みそが、どこまで記憶してくれているかは、本番当日にならないと分からない。でも、思いつくあらゆる準備は片っ端からやってみるという日々を過ごしました。

通訳本番の日、初めてお会いした作家さんは愉快でとても優しく、店舗にお客様のいらっしゃらない時間は、作家さんご自身にインタビューをする時間にもなり、すっかりファンになりました。

お昼ご飯をご一緒した時、最近なんのドラマや映画を見たかという話になって、NETFLIX「おつかれさま」が素晴らしかったという共通項から話が膨らみました。パク・ボゴム、パク・ヘジュン演じる「クァンシク」のような男性は、昔はいなかった。僕は韓国のエンタメよりも、日本や中国の映画の方が実は好きなんです。『ドライブ・マイ・カー』の濱口監督すばらしいよね。そうそう、作品関連でイタリアに行った時には、昔大好きで何度も見た映画『冷静と情熱のあいだ』のロケ地をすべてまわったんだよ。

日本のエンターテイメントを心から愛してくださっている様子が会話から滲み出てきて、なんだかありがたい気持ちになりました。

少なくとも一年前には、自分が通訳のお仕事をさせていただける機会があるとは思っていなかった。

人が優しく、食べ物がおいしく、この国がとても好きなのに、唯一残念なのはハングルがわからないこと。そう思っていた20数年前の自分が、1ミリも想像していなかった瞬間。言葉の勉強を始めるという小さな歩みが数年積み重なって、韓国に大切な友達ができ、好きな映画ができ、好きな本ができた。もっと話したい、理解したい、そんな日々の衝動が途切れず続くから、日々の生活の間、常に韓国語から離れることはなく、コツコツと勉強を続けることができている。

そうやって少しずつゆっくり体に染み込んできた言葉が、自分を助けてくれて、新しい機会を連れてきてくれている。

死ぬまで勉強は続くし、まだまだ勉強の分量は足りていないけれど、これからも韓国語と長く仲良く過ごしていけたらいいな。

愛する国の言葉が自分をどんな場所に連れて行ってくれるのか、その変化をゆっくりと楽しみながら、つまみ食いでストップしている言語も、勉強を再開したいと思います。

今週も一週間おつかれさまでした。みなさま、よい週末をお過ごしください。

こいけはなえの気になるもの。

(毎週土曜日更新)
マネージメントを中心に料理家と一緒にand recipeという会社をやってます。とにかく旅が好き。

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