目を覚ますと、僕はゼリーだった。その2

こんにちは、山口フォトです。今月もやってきました、アンサー小説。

アンサー小説とは、SAKRA.JPトップページに行きまして、スマホだと月の変わり目、PCで見るとカレンダーの下にあるイラスト。そのイラストからインスパイヤされた物語を紡ぐという、才能の無駄遣いコンテンツです。

初めての方は、前回の話から読んでくださいね。

先月のイラストはゼリーだったんですが、今月はすでにパンになってます。どうなるんですか、この話。
それではどうぞー。


7月17日

ゼリー人間になって3日が経った。初日は夜になっても眠ることができなくて、明け方近くなってから日記を書き出したのだ。結局は書いては消し、書いては消しを繰り返すだけで、まとまらなかったが、何かに集中することで、少しだけ気持ちが楽になり、いつの間にか机に突っ伏すように眠りについた。

そのまま眠り続け、2日目の午後には目を覚ました。おかしな体勢で寝たせいで体のアチコチが痛かった。痛みを感じられたことで、ホッとした部分もあった。僕はまだ僕なんだ、と妙な実感が湧いてきたからだ。わずかばかりでも気持ちが落ち着くと、途端におなかが空いてきた。

まだ体は痛むし、腕や足がしびれていて、何かを作って食べる気にはならない。冷蔵庫を開けて牛乳を手に取る。テーブルの上に乗っていた紙袋からパンを取り出した。

両端にむかって細くなる形をしたパン。そういえば、朝早い時間帯にパンを買いに行ったのだった。もう7月なのに陽が当たらないせいか、肌寒いほどの朝だった。そのせいで、人肌恋しくなって、焼き芋によく似たパンを買ったのだ。

当然のことながら形は焼き芋でも、味はパンだ。

ゼリーになった僕は、果たして僕なのか。焦げた部分を噛んでしまう。ひどく苦かった。

7月24日

ようやく自分の置かれている状況をいくぶん受け止められるようになってきた。

結論から言うと、10日経ってもゼリー人間のままだ。どうしてこうなったのか、原因は分からない。

おかしな注射を打たれたせいで変身しただとか、頭を強く打ったせいで自分の認知がゆがんだとか、そういった分かりやすい原因は、思い当たる節がない。ただ、起きたら体がゼリーになっていた。それだけだ。

とはいえ、体の色が透明な緑色になったこと以外に、大きく困ることもないと分かってきた。眼球まで緑色になっているのに、今まで通りに見ることができている。どういう原理なんだろう。興味はあるが、知ることができなくてもいい。それよりも、戻れるものなら早く元の体に戻りたい。

自分の身に起こったことへの不安、違和感はもちろんあるけれど、このよく分からない体を

知っていくということに、すこしだけ喜びのような驚きのようなものも感じている。髪はワックスでなでつけたようになっていて、あまり動かなくなった。もともと髪型に気を使っていなかったから、これは楽でいい気もする。舌で歯に触れると硬いのだけれど、どちらもやっぱり緑色だ。

こんな感じで、自分の体をじっくり観察するようになった。そもそも今まではどんなだったか、と分からないこともある。なにかが起きないと、普段は自分の体のことすら気にかけていないのだと気付かされた。

7月28日

今日で2週間。まだ行きながらえている。というか、安定してきた。

食べ物の買い出しをどうしようかと、はじめのうちは不安に思っていたが、冬から感染症が蔓延していたことで、買い置きしていた食料が意外と多かった。缶詰や乾麺、冷凍食品も冷蔵庫に眠っている。買い物に行かなくとも、まだ2週間は過ごせるはずだ。

この体では、買い物に行けないが、よくよく考えれば、ネットでクリックするだけで届けてもらえる。家の前に宅配ボックス代わりに、金属製の大きなゴミバケツを置いてみた。ためしに米をポチッと購入。翌日には、ちゃんとゴミバケツに届けてもらえた。

仕事の面でも、毎日出勤して人に会わずに済んでいるから、どうにかなるという見通しが立っている。観光スポットの記事を書くというのが、最近の主な収入なのだが、予算削減のおかげで、現地に赴いて取材と撮影をすることはほとんどない。

提供された写真素材を使い、あとはホームページやネットの情報を寄せ集めてまとめるだけ。そんな観光情報でいいのだろうかとモヤモヤしていたこともあったが、今となっては在宅ですべてを済ませられるのだから大助かり。予算削減さまさまである。

書く内容は、季節によって観光情報が花見だったり、海、紅葉と変わりはすれども、やることは一緒。流れ作業的に書いて、営業時間や定休日を確認。あとは編集部からの赤字を修正すればオッケーなのだ。取材に出向くことなく、同じようなことの繰り返しでつまらない仕事だと思っていたが、ルーティンで回る仕事でよかった。取材で旅行に行かせろ、なんて文句を言って申し訳ない。感謝、感謝だ。

つづく


(ここから山口)
なんということでありましょう。ゼリーのまま過ごす日々。
家にこもって仕事をしたり、通販したりしてるし。
ご飯食べたら、透けて見えたりするのかなぁ。続く!らしい。

最近の若岡くん

今住んでる家らしいです。足場!
顔出し看板よく撮ってる印象あり。センター不在。

山口フォト

(隔週水曜日更新)
雑談デザイナー。WEBや写真とか。MountainDonuts社-代表。九州と東京を行き来してますが、住んでるのは東京です。

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