キツネにつままれた話。
こんにちわー。ムトーです。
桜満開。
まだ、朝晩かなり寒いのだけれど、桜が咲いたので春です。

あとー、最近は何か作ったかな。
あ、メロンパン作りました。メロンパンて特に好きでも嫌いでもないけど作ってみたくて作ったらもう、作業が癖になりそう。楽しい。
そして、自分で作ると美味しい。

ネンド
僕は年度末、年度初めというのがとても慌ただしくなる人生です。年度で生きてる。
年度で生きていない人も世の中にはたくさんいるんですよね。
年度人生と非年度人生。
令和6年度が終わりました。
令和7年度が始まります。
年度に縛られない人生を歩んでみたい、と最近思っています。
ネバー・ネンディング・ストーリー。(どういうこと?)
不思議なできごと
年度が終わる、ということは別れの季節。
この春も何人ものお世話になった人を見送りました。
いくつか送別会にも参加しましたが、3月28日金曜日も送別会があり、その日はお酒を飲むことにしていました。
大分県豊後大野市三重町という場所での送別会。お寿司割烹みたいなお店で開かれたその会が始まったのが18時。ビールを3杯くらい飲んで、あとはずっと焼酎をロックで。たぶん5、6杯。
僕は基本的にはお酒をどれだけ飲んでも酔っ払わないし、まったく変わらないんです。ロレツが回らない、とかもない。
1次会が終わったのが飲み放題2時間コースだったので20時くらい。店を出てそこから徒歩5秒くらいの居酒屋さんで2次会。それが20時過ぎ。
ビール2、3杯を飲んだところで、僕は最終列車(電車ではなくディーゼル機関車)の時間が迫っていたので中座。
最終列車の出発時刻は22時30分。お店から徒歩10分もかからない距離に駅はあって、ちょっと余裕を持って2次会の店を出ました。
JR三重町駅という駅の2番乗り場に来る列車に乗ればいい。僕は終着駅の大分駅で降りる予定。家の最寄り駅は違うけれど、大分駅の周辺で飲み直して帰る魂胆。
22時26分、僕のいる2番乗り場に2両編成の列車が来た。後ろの車両の一番うしろの2人掛けの席に座る。
寝てしまわないように、スマホのタイマーを大分駅到着の5分前と2分前にセット。イヤホンを耳にして音楽を鳴らした。大分駅までは1時間弱。「久しぶりに、あの店で飲み直そう。」と大分駅に着いたあとのことをシミュレーションしたりして、ガタンゴトンと列車に揺られていた。
「お客さーん、着きましたよー。お客さーん!」
肩を叩かれて目を開けると、車掌さんらしき男性が僕の顔を覗き込んでいました。
しまった!タイマーに気づかなかったか。
「すみません!!」
そう言って、僕は荷物を掴んで列車を飛び降りた。
あー、恥ずかしい。
ん。
え。
知らない駅。
ここどこ??
僕は、ホームの駅名の看板を確認しに数メートル歩いた。
庄内?
庄内って、あの、由布市の庄内??
パニックになった。
列車が動く音がした。
列車を見送った。
僕だけが残り、外灯がホームを照らす以外、周囲は真っ暗になった。
まだ整理ができなかった。
無人駅のホームのベンチに腰をおろす。
僕が乗った三重町駅発大分行きの列車はJR豊肥線。熊本駅(熊本県)と大分駅を結ぶ路線。
庄内駅はJR久大線で、これは久留米駅(福岡県)と大分駅を結ぶ路線。
まったく、違うの。
時計を見ると日が変わって0時15分を過ぎている。
スマホで周辺を検索しても宿も、コンビニもない。
自宅までは30km以上ある。
10kmならなんとか歩く覚悟は出来るが、30kmは無理。
駅周辺にタクシーもない。
だめだ。打つ手なし。「詰んだ」というやつか。
酒を飲んでも変わらないが、少しふわふわとしている。まっくらな無人駅にひとり。きっとシラフなら大人でも寂しいし、怖い。しかし、お酒のおかげが恐怖心はない。情けなさとか絶望感もなんとなくふわふわとしたものに包まれている。
始発は5時54分。5時間半以上ある。
四方を囲まれた待合室があるので、そこで寝て朝を迎えることにした。
ベンチに座り、後ろの壁にもたれかかって目を閉じた。
軽い頭痛と寒さで目が醒めた。二日酔いに襲われて気持ち悪い。
何より寒い。防寒意識の薄い僕は、羽織るジャケットも薄かった。
まだ3時。始発までまだ3時間もある。
お酒でふわふわした状態だから鈍感力が増してベンチで寝られたけれど、目が醒めて、二日酔いと寒さと現実に襲われるともう眠れない。
寝ないと時間が経たない。
自販機のホットコーヒーで体を温めようとしたが、設定温度が春仕様なのかぬるい。
ぜんぜん温まらない。
楽しいことを考えることにした。春っぽいことを考えた。
だんだん白んでくる景色の中に、桜を見つけた。
「ああ、きれいだなあ。」
そうひとりごちた。
何をして最後まで時間を潰したのか全く覚えていない。
始発の時間が近づいて、ひとり、上下紺色の作業服を着た角刈りの男性がホームに現れた。60歳くらいだろうか。
数分後、黒縁の度の強そうな分厚いレンズのメガネをかけた髪がもっさりとした男性もやってきた。40代なのだろうか、キテレツ大百科の浪人生、勉三さんみたいな人だった。

まだ薄暗いが、周囲が見えるようになった庄内駅の周辺は民家こそあれ、やはりこれといったものはなかった。しかし、無人駅ながらクレジットカードで乗車できる装置が置いてあった。僕はそこにピッとカードを当てた。
始発列車が朝靄の向こうから来た。
僕は、角刈りと勉三と同じ車両に乗り込んだ。
車内は暖房が入っていなかったが、待合室やホームの寒さに比べるとマシだった。
その車両は古いもので、4人掛けのボックス席の窓側にお茶などを置ける小さなテーブルのようなものが付いていた。僕が子どもの頃によく乗っていたタイプだ。
僕と角刈りと勉三はそれぞれ別のボックスに離れて座り、それぞれが窓の外を見ていた。
薄暗い靄の中を走る列車は、今のこの時間が、現実ではないような気分にさせた。
三人しか乗客のいない列車。この列車に運転士はいるのだろうか。
角刈りと勉三。昭和じゃないか。
しかも、僕が生きた昭和よりも前の世代の昭和。
そういえば、僕は昭和歌謡やフォークソングがずっと好きだった。
朝靄の向こうから来た列車に乗ったことで、憧れていた時代にタイムスリップしたのかも知れない。
そうかもしれない。年度末、別れの季節の寂しさがきっかけになって、今はいない、会いたいひとたちのところにこの列車が連れて行ってくれるのかもしれない。まずは祖父母に会いたい。
おじいちゃん・おばあちゃん子だった僕。目頭が熱くなった。
いや、待て。そんなことがあるかよ。
もしかして、俺、死んだのか。
もう、いくつか駅に停まったのに、誰も乗ってない。
角刈りと勉三はずっと外を見ている。
ああ、きっとそうだ。死んだんだ。
豊肥線に乗っていたのに、寝過ごして久大線の無人駅で降りた。
そんなこと現実にあるはずがない。
そうか。。家族に何も言えなかったな。
両親に感謝も伝えたかった。
くそぅ。。

いや、クレジット、クレジットカード!!
俺は、庄内駅の改札でクレジットカードをタッチした。
あれは、最新の技術。
「あれは令和じゃん!」
そう心で叫んだ。
もし、あのクレジットカードのタッチ音が現実のものだったとしたら、俺はいまを生きている。いまに生きている。
「あれは、令和。」
なんども反芻した。
大分駅に着いた。扉が開く。
角刈りと勉三はいつの間にか見失った。
大分駅の改札口前に来た。
クレジットカードで通過できる改札機を探した。
ない、ない、これじゃない、これも違う。
「あった!!これだ!!」
僕はクレジットカードを改札機に当てた。
「ピッ。」
ガチャっ改札のゲートが開いた。僕は改札を抜けた。
その瞬間、ずっと僕を覆っていた靄が消えた。
生きている!
令和じゃん!
妄想旅行社ムトーツアーズ 代表 ムトー