ブータンでの日々
週はブータンの山から下りたばかりでバテバテでした。ようやく回復してきたので、レースの模様をちょっとご紹介です。
ブータンの北部に連なる山脈を、西から東に200kmほど走ってきました。「スノーマントレック」と言われ、踏破した人数がエベレストに登頂した人よりも少ないとのこと。通常なら1カ月ほどで歩き通すのですが、大会は5日間でした。この時点で驚異的です。
さらには、スタート地点の標高が2,800m。ここがもっとも低く、ぐんぐん高くなって、平均でも4,000mを超え、高いところは標高5,000m超えでした。
夕方、日が沈むと、気温は氷点下になり、Tシャツ、短パンだけだと寒くなります。周囲を舞う雪をきれいだなと感じてみたり、澄み渡った夜空に浮かぶ星々を眺めてナイトハイクも悪くないなあと、今考えるとのんきに歩いていましたが、リタイア続出で、けっこうタフな環境でした。
レース途中から、あぁ、標高が下がってよかったと思ったのに、低地で全然走れない。いったいどうしたんだろう、自分。などと動揺することもあったのですが、低いところでも標高3,700mと、ほぼ富士山の山頂です。感覚がズレてしまっただけで、十分な高地でした。
十分に高所に順応できず、僕は毎日を無事に終えるだけで精一杯でした。高山病で頭痛、吐き気に見舞われ、山酔いで頭がボーッとしてしまうありさまです。
空気が薄いと大変です。歩きながら水を飲んでいるだけで、息切れを起こし、立ち止まって呼吸を整えないと、めまいがすることも。これは困ります。走るどころではありません。
そんな状況でレースが開催されたのは、ブータンの王様が、気候変動による自然への影響を周知するためです。たとえば、コース上には標高5,000mの高地に湖がありました。青く澄んだ湖面はとても美しく、背後にそびえる雪山と相まって、自然のつくりあげた色彩美です。
しかし、この湖は数十年前までは存在していませんでした。近年の温度上昇により、氷河が溶けて湖が誕生してしまったそうです。そして、蓄えられた水は大雨などの際に、決壊してしまうと大洪水をもたらし、山麓の村を飲み込んでしまう恐れがあります。
レース前に滞在していた集落の近くには温泉施設があったのですが、昨年、洪水によって壊滅していました。
そうした現状を伝えるために、ブータンでももっとも過酷で、国民が憧れているというルートを駆け抜けてアピールしようとレースを企画したそうです。山好きで、スポーツも好きという王様ならではの発案です。
気候変動という、とても大きな問題を解決するのは、容易なことではありません。過酷なルートを一歩ずつ進むことで、踏破するという姿を見せることで、大きすぎる課題であっても、諦めずに取り組むことが大事。というメッセージを体現することはできたと思います。
なにはともあれ、これまで走ってきた大会の中で一番疲れました。
帰国してちょっと骨休めです。今回もおつかれ山でした。