ぼくが鬱になった時の話
ちょっと昔のことですが、タイトルの通り、鬱病と診断されていた頃の話です。
山日記とは関係なさそうですが、帰結するところは、山に行くのは精神衛生上とてもいいね!という結論です。普段とは毛色の違う昔話になります。
昔むかし、というほどでもない、7年前に鬱病でした。鬱という漢字が鬱陶しいので、以下では「U2」と表記してみます。
ぼく、実はU2だったんです。
なんだかロックで、ちょっとポップになっていいかも。世界的なバンドっぽさも出ます。ちなみに、本家・U2のアルバム「POP」はよく聞いてました。
音楽の話はおいといて、いかにしてU2としてデビューするに至ったのかです。
当時は新聞社で記者をしていました。わりとストレスフルで毎日が骨太ロックンロールな環境でした。荒くれ者ばかりの会社でU2に至るまでの経緯をザックリまとめましょう。
大学を出て空白の1年を経たのち、新聞社に勤め出しました。最初のうちは、ネタを取ってこいと怒られる日々。その後、後輩ができる頃には仕事終わりに真夜中のボウリング大会が開かれ、上司チームに負けて勉強料3万円を週ごとにお支払いすることに(ボウリング後に午前3時から始まるファミレスでの食事はおごっていただけました!)。仮眠後にまた仕事。朝から翌日夜までの泊まり勤務という日程もありました。そんな夜に限って火事だか、事故が起きて取材に行くことになり、さらに眠れなかったのも今ではよか思い出です。
余談ですが、やはりネタを取って来れなかった時に、先輩から「八つ裂きにするぞ」と怒鳴られ、思わず「八つ裂きですか?」と聞き返したことも。八つに裂くなんて、常用する言葉でもないですし、人生で言われる機会はまずありません。さすがは先輩。圧巻のワードセンスです。
八つ。どんな分け方で裂くのだろうと考え出してしまい、引き続き怒られていたのですが、まったく頭に入ってきませんでした。とまあ、とても味わい深い会社でしたが、おもしろ話はまたの機会に。
なにかと得がたい社会勉強をさせていただきました。その甲斐あって2年もすると、大声で怒られても、自分に責任のない感情的な罵声はすべて聞き流せるまでに成長しました。
底抜けのストレス耐性を手にしたと思っていたのですが、やはり底はあります。自分の限界を見ることになったのは、部長と2人きりの部署に異動したのが引き金でした。
部長×ぼく=U2
こんな数式が成り立ち、ふたりの間で化学反応が起きるわけです。
物静かながら、とてもハイスペックな部長でした。ふらっと飲みに行ってネタを取ってきたり、笑顔で雑談してるだけのようで取材を進めていたり。仕事のやり方を見習うべき先輩でした。
惜しむらくは、できない人間のことを分かってくれませんでした。部長は自分を基準に考えるためか、スペックの劣るぼくの仕事ぶりでは物足りず。2人だけのデスクで、静かに2、3時間ほど諭すように怒られます。指示が高度すぎて、朝と夕方で真逆の指示になっているなんてこともありました。ぼくだけなら、勘違いなのでしょうが、一緒に現場に出ていたカメラマンも同じように怒られ、「真逆だよな」と愚痴っていたので、やはり難解すぎる指示だったのでしょう。
怒鳴られることには慣れていましたが、仕事ぶりを淡々と否定されていくのは、まったく質の違うキツさがありました。正解のない2択のような指示に振り回され、詰問される日々が続きます。逃げ場のない空間で半年以上、2人きりで静かに詰められていた結果、不調を感じるようになりました。
寝ても疲れがとれない。布団から出たくない。この辺は普段通りなのですが、会社に行こうとすると気が重い。社屋に入ると気持ち悪くなる。物事を悪い方にばかり考えてしまう。なにか原因があるわけでもないのに漠然とした不安に駆られる。萎縮。食欲減退。ミス増加。最後は麻雀の役みたいになりましたが、振り返ると、さまざまな症状が出ていました。
精神的に潰れる前にギブアップしないとマズい。そう思い、退職したいと部長に伝えることに。あらたまって話があると告げると、部長も何かを察したのか、会社の裏にある階段まで移動。あまり人のこない場所です。
そこで、部長から缶コーヒーを手渡され、階段に腰掛けます。緊張のせいなのか、待っている間の寒さのせいなのか、冷え切っていた手には温かい缶コーヒーが優しく感じられました。
なかなか話し出せないまま、缶コーヒーは熱を失い、冷え切っています。重い沈黙。最後の一口で覚悟を決めて飲み切り、ようやく会社を辞めたいと伝えました。それだけの言葉を口にするだけで、ひどく疲弊します。伝えたところで、ホッとできるわけでもなく、なにやら自分が悪いことをしているような気さえしました。
部長は特に驚くでもなく、表情を崩すこともありません。ひと呼吸おいて返ってきたのは「それは逃げなんじゃないのか。もう少し頑張ってみたらどうだ」という言葉でした。高スペックな部長らしい正論です。正論ではありますが、なぜ逃げてはいけないのか。逃げさせてはくれないのか。
逃げるのもどこかに進むことなんだから、それでいい。今ならば言い返せるのですが、当時はなんの言葉も出てきませんでした。小さく頷いてうなだれるばかり。それは自分の中でなにかが壊れる瞬間でした。
長くなってきたので、続きはまたの機会に!