こてんぱんにされるのも悪くない。スマホを落とし、その後は風邪で寝込んでも。

いやもう、ボコボコにへこまされてきました。

久しぶりに長い距離のレースに出場してきたのですが、清々しいほどに走れずでして、リタイアに終わりました。

参加したのは兵庫・丹波市の山々を170km走る「TAMBA100」。ひたすら登って下りて、また登ってという繰り返し。それって、いつも通りやんと思うなかれ。

制限時間は70時間。選手もさることながら、スタッフも長丁場で大変だったりします。なので感謝です。

普段は斜めに登っていくのに対して、今回はほぼ壁。もう斜面ではなく、壁面を登るわけです。足の置き所が悪いと、ずるずると滑り落ちていくこともあります。もう、めちゃくちゃにタフなコースです。

「階段をあがって」とスタッフに教えてもらった直後。階段と呼ぶには急勾配すぎませんか

そんなハードなレースを作ったひとも、なかなかの破天荒でした。夏に1,140km超を2週間ほどで走破した中谷亮太選手。30歳にして、仲間と一緒にレースを1から立ち上げるという強者です。こんなところに登山道はついてないよなあ、というところを整備してつないでくれていました。

僕も経験があるのですが、整備は大変です。通過するなら数分のところが、1日がかりなんてこともあります。それがなんとなく分かるので、よくぞ通してくれたものだと、走りながらも心を打たれました。

山を下りたら石灰で消毒。左にいるのがコースを作った中谷さん。

タフなコースで、思うように進めないのに加えて、前から痛めていた膝がバカになって途中から踏ん張れない、走れない、下れないという三重苦に陥るのでした。何もないところでつまずくわ、滑って転んで、苦戦しっぱなし。上位選手はあっという間に消え去り、ひとりでもがく時間の長いこと。もっとも、それが楽しいわけです。

動き続けながら、どうやって進もうかと考えます。困ったなあ、次はこうしてみよう。これでどうだろうか。足の運び方や体の使い方を、いろいろ試してみるも、上手くいくのは稀です。だいたい失敗して、転んだり、身体をアチコチにぶつけたり。

上位陣と走れたのはスタート直後くらいでした。

泥にまみれながら、壁を乗り越えていくのもいいものです。苦労したぶん、ひとつの山を越えるたびに、得られる達成感もひとしお。小さな成功体験を積み重ねてはまた次の山へ。キツいのが好きというわけではないのですが、積み上げた分だけ結果が出るという分かりやすさがあります。

昼夜を問わずに進むレースのため、夜半も、未明もヘッドライトの明かりを頼りに走ります。

普段、山に行かない人にとって、山は非日常的な場所ですが、山をうろうろ走る輩にとっては、昼間の山は日常です。それに比べて、真っ暗な山の中は、ちょっと特別感。闇に包まれ、静まり返っています。個人的には昼よりも、そんな空気感がなんだか落ち着きます。

ついでにスマホを落として、探し回るのもご愛敬です。

とはいえ、真夜中になると、かなり冷え込みが厳しく、雪もちらつくように。動いてないと、すぐにガクガク震えてしまいそう。朝から風邪っぽかったのが、順調に悪化です。うっすら寒気を感じては、気のせい気のせいと気にしないフリ。鼻水と咳が出るのは、まあ朝からだから、よしとしよう。

ぐっすり、あるいはぐったり夢の中。

都合よく解釈するも、仮眠の取れるエイドステーションでは、やっぱり十分に体を休めることに。睡眠がすべてを回復させてくれるはずとばかりに、長めに寝てみたものの、寝起きはいまいち。さりとて、走れないほどではなさそう。

ということで、やめる理由もないので、またレースを再開。夜は明けていたものの、雪が舞い、いつの間にか吹雪き、あれれ、稜線が真っ白だ。風も強い。徐々に風邪の気配も強まるわけで。咳き込むことが増え、登りの途中で呼吸が乱れて、進めないことこの上なし。

あ、冬到来。

ここで思い出されるのは、3年前にヨーロッパの山の中で、高熱を出してダウンしたこと。チームを組んでいた先輩に迷惑をかけた苦い思い出です。

このときも咳が出て、ふらふらでした。なんだか悪化してきてるかも、と思ったときにすでに遅きに失していました。一気に発熱して意識は朦朧でした。近くにあった山小屋になんとか辿り着いて、体を横たえることで持ち直したのですが、もし何もないところで寒空の下に倒れていたら、どうなっていたことか。

そんなトラウマが思い出されました。とはいえ、ひょっとすると大丈夫かもしれないが、倒れるかもしれない。さて、今回はどちらだろう。突如として訪れる決断の時です。

ダメになるまで進めばいい、ダメになったらその時に考えよう。というのは実は簡単です。

やれるだけやったのだから仕方ないと気持ちを切り替えやすいからです。大事をとってキリのいいところでリタイアすると、まだ行けたのかも、と悔いを残しがち。

きょうは倒れる前に自分の足で帰ろうとリタイアを選択。77km、半分もいかないところで、こてんぱんです。もちろん、悔しさもありましたが、それ以上の清々しさが感じられました。

朝日を拝むと、たいていは元気になります。

夏に本州の山を縦断して以降、ちょっと腑抜けていたところに喝を入れられ、目がぱっちり。かれこれ2年ぶりとなった長い距離のレースで、ままならぬ自分を思い出せたのもよかったです。

長い距離を走っていると、体調不良やケガ、アクシデントなど、思うままにならないことばかり。思い通りにならないから、それを乗り越えようと掻き立てられるわけです。

ままならないから挑む。1回目で上手くいかないなら、上手くいくまでやればいい。

挑戦できるって、なんかいい。

そんな余韻にひたりながら、風邪で寝込んでいました。

愛犬はすこやかに眠っております。

そんなこんなで今回もおつかれ山でした。

わかおかの山日記

(隔週水曜日更新)
山を走ったり、歩いたりするのが好きです。よく忘れ物をします。そんな日々を記すライターでランナーです。

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