「できない」の楽しさ
新しい経験ができるというのは、いくつになっても幸せだなあ。
雪の上でそんなことを考えていたのは、1泊2日の合宿に参加して、クロスカントリースキーに悪戦苦闘してきたからでした。
愛用しているザックのメーカー「PAAGO WORKS」が企画したクロカン合宿で、サポートを受けているアスリート、ハイカーが参加。ふだんは野生動物のように山を駆け、遊びまわっている面々でしたが、クロカンはほとんどが初体験です。
長野県の木島平スキー場に近い宿泊施設「スポーツハイムアルプ」に現地集合し、そこからマイクロバスに乗ること数分で、クロカン競技場に到着です。
まずは準備なのですが、爪先だけで固定するクロスカントリースキーの板を履くだけでも素人は一苦労です。
おっかなびっくり装着したはいいものの、歩くのもままなりません。生まれたての子鹿のようにふらつき、バランスを崩して倒れてしまいます。
なんとか立ち上がり、その状態で歩いてみると、ちょっとした凹凸で転びそうに。自分だけでなく、あちこちから悲鳴が響いていました。
そんな様子を温かい目で見守る講師役の2人が大瀬和文さん、木村大志さん。どちらもトレイルランニングの猛者にして、クロカンも強者です。
教え上手な2人に動き方を教わり、いざ実践。山遊びに長けているメンバーばかりでしたが、これが一筋縄ではいきません。
各々の頭の中ではスマートに滑れているのに、実際は思い描いている動きがろくにできませんでした。
何もない平地で豪快に頭から雪に突っ込み、ゆるい斜面を滑っては転倒しての繰り返しです。
ぎこちない動きは、どこかコミカルで、誰かが雪にダイブしたのを見て笑っていると、その直後に自分も同じ目に。ダイブは連鎖するのか、はたまた初心者の常なのか。アスリートとしての野生動物的な俊敏さはなく、妙な動きをする珍獣のようでした。
シャツやパンツはびしょ濡れで、汗のせいなのか、溶けた雪のせいなのかが分からない状態。イメージ通りに動けないとストレスを感じそうなものですが、みんな笑顔です。
僕も例外ではなく、楽しいこと、この上なしでした。できないというのは、楽しいものです。
もちろん、上手くできることを反復して、精度や技術を高めていくのも面白いですが、ゼロから始められるのも大きな喜びだからです。
ふらついて立っているのも精一杯だった子鹿が、踏ん張りながら一歩ずつ前に進むのを見て感動するような気持ち。それを自分で体験しているようなものです。
夕方に滑り終える頃には、全員がそれなりに動き回れるようになりました。
できなかったことができるようになる。それは嬉しいのですが、クロカンが「できない」という新しい体験はもうできません。
「あー、もう初めてだった頃には戻れないのか」などと口にするメンバーも。冗談めかした口調だったので、みんなで笑い飛ばしたものの、少しだけしんみりしました。
学生時代の日々がもう帰っては来ないのと同じように、滑り終えた僕たちはスタート直後の初々しかった頃とは違うのでしょう。だから、ちょっと感傷的になったのかもしれません。
1日の終わりがもったいないと思う感覚です。鮮やかで心を震わせる体験ができて、仲間と分かち合えたことで、名残り惜しく感じたのでしょう。
もっとも、震わせていたのは心だけではありません。
不慣れなクロカンの疲労により、スキーを外してからも、脚が子鹿のように。疲労困憊なのもみんなで共有したのでした。
===お知らせ===
3/19に都内で日本列島大縦走の報告会を開催します。お時間ある方はご参加ください。お時間ない方もよい1日を!
詳細はこちらから
日本列島大縦走報告会
日時 3月19日(火)19:00~22:00、開場18:00
場所 東京都渋谷区東3-9-19 VORT恵比寿maxim 4F、アルコインターナショナル東京オフィス
参加費 2,000円(軽食、ワンドリンク付き、税込)
タイムテーブル
・グループラン 19:00~19:50
・報告会 20:00~21:30
・歓談 21:30~22:00