「でも楽しかったね」で終わる週末

結果を問わずに、過程を楽しめる人は強い。先週末に出場したアドベンチャーレースで、そんなことを改めて感じた。

北海道ニセコ町の周辺を舞台に、2日にわたって行われた「ニセコ・エクスペディション」に参加。4人からなるチームに女性が1人以上いないといけないというのが規定。僕の加わったチームは男性1:女性3という編成。男性は僕だけ。

これは紅一点の逆で白一点なのか?どうでもいいことを考えてしまう。スキーリゾートのホテルがスタート地点とあって、僕の頭はのん気なリゾート気分だった。

スタート前の会場は静か
スタート直前は熱気がむんむん。

会場で地図が配られて、気持ちは一転する。この地図に記されたチェックポイントを通過してゴールを目指すのだ。一気に11枚が配られ、情報量の多さにあたふた。そのうち、カウントダウンが始まった。

「5、4、3」スタートラインに熱気がぎゅっと凝縮されていく。「0」と同時に、ヘッドライトの明かりが列をなして駆け出した。

時刻は午前0時、当然ながら真夜中だ。

明言しておこう。ここにいるのは自分を含めて物好きの集まりである。リゾート地までやって来て何をしているのだ。

物好きの集まり。

最初の区間はトレッキング。冬は極上の雪に覆われるゲレンデを登ったり、下りたり。森に入ったり、茂みをかきわけたり。

暗闇の中で頼りにできるのは手元の地図だけである。地図上にある尾根や谷といった地形の変化や人工物、植生などがヒントになる。それを目の前の景色と照らし合わせ、自分たちにとって最短となるルートを自由に組み立てる。

登山道を使うもよし、道から外れて森を進むもよしなのだ。書いてしまうと簡単なのだが、尾根をひとつ間違えるだけで大きな痛手になってしまう。泥酔したせいで、となりのマンションで自室と同じ部屋番号のドアを開けてしまうようなものだ。行動には責任が伴うのである。

手当たり次第にドアを開けていたら逮捕されるだろうが、レースならそんな心配はない。ただ、スタッフがGPSで選手を見守っているため、ハラハラさせることにはなる。

大きなミスなく最初の区間を終えると、次はマウンテンバイク(MTB)。といっても、ペダルを踏むのはちょっとお預けだ。バイクを引いてゲレンデを登る。そこからは爽快。夜の山を駆け下りる。先が見えなくて慎重になっていたのは内緒だ。

あっという間にMTB区間も終わり、再び山歩き。登山道が消えても、気にせず進む。背丈を超える高さの笹藪に行く手を阻まれる。複雑に絡み合ってはね返されることも。

わりと歩きやすい藪で撮影。

進むために全身でもがく、もがく。すると、はじめは「大変」と言っていたチームメンバーに変化が訪れた。藪を抜ける頃には、「なんだか寂しい」「えーもう終わり?」とテンション高め。どうせキツい区間なのだから、開き直って楽しんでしまえというブレイクスルーが起きていた。

「同じ阿呆なら踊らにゃ損々」という阿波踊りの精神と同じである。「ただ、しんどい」と文句を言いながら進むよりも、どうせ競技を続けるなら、前向きに捉えた方が楽しいに決まっている。

その後も笑顔が絶えない。ラフトボートを漕いだり、走ったりと順調だった。

ラフティングはチームでこぎこぎ。

雲行きが怪しくなったのは1人用のゴムボート「パックラフト」の区間。各自が川を下っていたところ、メンバーの1人に異変が起きた。上陸した時に自分の意思とは関係なく、体の震えが止まらない状態だった。

ずっと濡れて冷たい川の水をかぶっていたせいだ。大会前の大雨による増水で、水位が上がって波が高くなっていたのである。船底には水がたまり、絶えず体を冷やしてくる。

船から下りる際にはバランスを崩して川に落ちていた。体温が下がり、筋力が一時的に低下していたのだろう。

本人は「まだまだやれる」とやる気十分だが、まだまだ川下りや沢登りが続く。エスケープのできない区間だった。体力が多少回復できたとしても、リスクはかなり高い。

キツいだけなら、なんとでもなるが、生命の危機が絡んでくると話は別である。責任の取れないことはできない。だから、4人で話し合ってリタイアを決めた。行動と責任は、ハンバーガーとコーラのようにセットなのだ。責任の取れない行動はできない。

完走はできなかったが、誰ともなく口をついて出てきた言葉は「でも楽しかったね」だった。素直にうなずけた。うまくいかなかった結果を含め、すべてを楽しめた。こんな終わり方も悪くないと思える週末だった。

今回のチームは「TEAM MURB」。チーム名の由来は、プロテインウォーター「MURB」を手がける会社の代表・カモさんがキャプテンを務めることから。僕はソルトライチ&グレープフルーツ味が好きです。

鳥類にも超人気でした。

わかおかの山日記

(隔週水曜日更新)
山を走ったり、歩いたりするのが好きです。よく忘れ物をします。そんな日々を記すライターでランナーです。

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