足を前に出し続けること
人前で話すのが苦手だ。
4、5人以上になると、どこに向かって話せばいいのか戸惑いを覚える。口から発した言葉がふわふわと宙で迷子になってしまう。
あるいは、分かったようなことを言い、それがブーメランとなって自分に突き刺さる。先日もそうだった。
大会のゲストランナーとしてマイクを渡された。
考え込んでしまうと途方に暮れて、夕暮れを迎えてしまう。スタート前にそれはまずい。
不意に口をついて出たのが、絶対に完走できる方法だった。
理論はいたってシンプル。何も考えずに右足、左足、右足と同じ動きを繰り返せば、ゴールにたどり着けるというものだ。
会場からは苦笑。何を当たり前のことを。それができたら苦労はしない。
いろんな困難や問題が待ち受けているから、ゴールに至ることができないのである。とはいえ、完走するという目標があるのなら、なすべきことは一つ。足を前に出し続けることだけだ。
止めたくなる理由、うまくいかない原因はいろいろある。全てが順調にいくことの方が稀だし、苦しい時には弱気になる。
止めるのは簡単だ。現状がよろしくなければ、光の差す未来は描きにくいのだから。思考しても仕方がない。歩みを止めたくないのであれば、進み続けるしかない。
そんな内容のことを、とりとめもなく話した。
そして、翌週。熊本で行われた「KUMAGAWA RIVIVAL TRAIL」で自らがあっさりリタイア。不調とはいえ、は、恥ずかしい。
これだから、分かったようなことを話すのは嫌だ。
その後、残ってゴールを見届けたのだが、ランナーの笑顔がまぶしい。山の端から昇る太陽のよう。サングラスはどこだ。喜びつつも、ちくりと胸が痛んだ。
帰宅する頃には、真っ暗になっていた。しょぼくれてしまう。うつむくと、自分の足。
こんな時こそ、右、左、右だ。痛みがあろうとも、立ち止まるわけにはいかない。
自分の言葉が意外と自分に刺さっていた。