親不知から山へ
今年の夏はフランス撮影のほかに、熊本、尾道に行ったり、ハイライトのひとつは北アルプスでした。断崖絶壁の難所として名を馳せた親不知の海岸から、内陸へと登っていくルート「栂海新道」をたどりました。
日本海側ではおなじみの親不知は、正式には親不知・子不知といい、その由来は崖と荒波に行く手を阻まれ、通過する際に親は子を忘れ、子は親を顧みる余裕がなかったためという説があります。
そばにいる相手の存在を忘れてしまうほどの険しさです。そんな難所から開発中のザックを背負って歩くというパーゴワークスの企画で、2泊3日で60〜80kmくらいを縦走する計画でした。
パーティーは僕を含めて3人でスタート。相棒はドレッドヘアのイケてる美容師にして、100マイルを走るトレイルランナーのヒデキさん、撮影係に現役大学生にして最近アルバイトからパーゴ社員に昇格した21歳のクノールと情報量多めの2人です。
荷物を軽くして走れば、時間をもっと短縮できそうだけれど、テント泊ということで荷物は15kg弱と僕にしては重め。普段よりもペースがゆっくりで、日程もゆるいから、気分的にはのほほんと構えていました。
が、歩き出して小一時間ほどで、クノールがキツそう。海抜0mからスタートということで、標高が低い間はとにかく暑い。
にもかかわらず、クノールは長袖、長ズボン。そりゃ、ないぜ。
こんなところで帰らせるわけにも行かないので、クノールにシャツを脱ぐように促すものの、Tシャツ、短パンはないとのこと。それでも脱がせた結果、汗が肌にべとつかないように着るアミアミの下着的なノースリーブだけに。なんだかセクシーだよ。
ルートはきれいで、迷いどころもなく、やはり気楽。ヒデキさんと会話を楽しみながら淡々と歩くのですが、クノールは疲れ気味。脱落させまいと荷物をいくつか持つものの、どんどん寡黙になっていきます。
よほど調子が悪いだろうか、会話が合わないのか、寝不足、あるいはジェネレーションギャップなの?など原因を考えていましたが、後々聞いてみると、シンプルに疲れていたとのこと。彼の状態がおかしいのではなく、ヒデキさんと僕の体力が有り余っていただけでした。
この日の行程は朝日小屋までの28kmくらい。一般的なハイカーの2日分らしく、けっこうタフな行程だったようです。
僕たちは余裕たっぷりでクノールの異変を正しく把握できず、かたやキツくて何も考えられず。相手のことを考えられない親不知・子不知な状態に陥っていたのでした。
つづく?